藤井一興「G.フォーレ/舟歌集」

舟歌

これも深夜によく聴く音盤。藤井一興メシアンに師事したこともある気鋭のピアニストです。昔、長野県の木曾地方を仕事で担当していたとき、「木曾音楽祭」というイベントがあり*1、そこに出演した彼を聴きに行きました。そのとき演奏したのはムソルグスキー展覧会の絵」。誰でも知っているこの有名曲を新鮮なタッチで聴かせてくれました。それ以来気になっている演奏家です。メシアン武満徹等でも印象深い演奏をしている藤井ですが、私が好んで聴くのはフォーレ、特に「舟歌集」なのです。
フォーレピアノ曲では夜想曲と並んで、この舟歌を生涯に渡って作曲し続けました。共にピアノ曲の分野ではポピュラーな形式で、ショパンの残したそれが一般には知名度が高いでしょう。フォーレが残したのは、ショパンに比べると地味に聴こえますが、聴きこんでいくにつれて味わい深く感じられる類の音楽になっています。舟歌は多くの場合複合拍子です。その揺れるリズムが心地よく、波間を漂う気分にさせられることもしばしば。そして旋律が奏でられたら、もうたまらない世界です。初期の洒落た音楽から晩年の転調を重ねつつも不思議な晴れやかさを感じさせる世界に至るまで、フォーレの優美かつ深遠な音宇宙に藤井は麗しい音色と気品のある演奏で私達を導いてくれます。さて、今晩もこの曲を聴きながら眠りにつくといたしましょうか・・・。

*1:これは本当にクラシックのイベント。民謡の「木曾節全国大会」なんてのもありました