ブルー・ナイル「ハッツ」(ASIN:B00000I3JO)

ハッツ


このアルバムを昼に聴いたことがありません。そして、これほど夜、ひとりで耳を傾けるのがふさわしいロック・アルバムも珍しいと思う。まさに極上のスコッチにも比すべき味わいを持つ名盤です。1984年にスコットランドから「Walk Across the Rooftops」でデビューして20年近くが経つ現在においても彼等が発表したアルバムはたったの3枚。しかし、その3枚のいずれも長く聴き続けるのにふさわしい風格をそなえています。中でも私が最も好むのが89年に発表された、この2ndアルバムの「ハッツ」。音数は多くなく、シンプルといってもいいサウンドで特に目新しいことをやってるわけではありません。それどころか、個々の音だけを追っていけば、ドラム・マシンの音色などには流石に時代を感じます。けれどもポール・ブキャナンによる楽曲とほろ苦さをたたえたヴォーカルがそこに結びつき、エンジニアのカラム・マルコムが絶妙に音の広がる空間を築き上げたとき、そこには時を越えた美しさをもつ、幽玄ともいうべき音楽が生まれてくるのです。次の作品がいつ出るのか、いや、現在彼等がグループとして存続しているのかすら定かではありません。でも、例えもう彼等が新たな作品を生み出すことがなくても、彼等の残した作品はひっそりと、しかし熱い思いを持って聴かれつづけていくことでしょう。