身も心も温かくなるセレクト

久々のセレクト合戦。初参加の方も多く刺激的な選曲を楽しませてもらっています。
私も久々の本戦とあって野心的な試みをやってみようとチャレンジしてみました。ただ、聴く人を置いてけぼりにもしたくなかったので、その兼ね合いをどうするか悩んでいたのですが、新春スペシャル・ドラマもやったりと未だ人気健在な「のだめカンタービレ」にあやかって、“のだめオーケストラ新春スぺシャル・コンサート”というコンセプトで行こう!と思い立ちジャケと1曲目を加えて完成した次第です。

1)ジョージ・ガーシュインラプソディ・イン・ブルー(ピアニカ・ヴァージョン)』演奏:のだめオーケストラ

というわけで1曲目はジャケにも使ったこれです。マングースの着ぐるみ姿をしたのだめのピアニカで幕を開けるこのヴァージョンをドラマでやってくれたのはうれしかったですね。曲はいうまでもなくガーシュインの代表曲。「シンフォニック・ジャズ」と呼ぶにふさわしい名曲で、クラシック、ポップス両方で大きな足跡を残したガーシュインを象徴しているといえるでしょう。

2)ウィリアム・グラント・スティル『交響曲第1番“アフロ=アメリカン”より第3楽章』演奏:ジョン・イェーター指揮/フォート・スミス交響楽団

ウィリアム・グラント・スティル(1895-1978)はアフリカ系アメリカの作曲家です。W.C.ハンディの楽団でアレンジャーを務めたり、エドガー・ヴァレーズに作曲を師事したという経歴を持ち、交響曲第1番“アフロ=アメリカン”が上演された時は、世界初の黒人クラシック作曲家として注目を集めました。ブルースなどの黒人音楽の遺産をクラシックの形で表現することを追及したスティルですが、今回選んだ第3楽章などを聴くと、私にはヴァン・ダイク・パークスの先駆的存在のように思えたりします。収録アルバムはナクソス盤。

3)パーシー・グレインジャー『カントリー・ガーデンズ〜イングランドのモリス・ダンスの調べ』演奏:サイモン・ラトル指揮/バーミンガム交響楽団

パーシー・グレインジャー(1872-1961)はオーストラリア生まれの作曲家・ピアニスト。なのになぜこんな曲を書いているかというと、ノルウェーの作曲家、グリーグに影響を受けて、蝋巻蓄音機をもってイギリス中をめぐり、イギリス民謡の採集に熱中した時期があるからです。この曲は彼がアメリカへ移住してから書かれ、元々はピアノ曲でした。今回はストコフスキーが編曲したヴァージョンを選んでいます。このパーシー・グレインジャー、英国トラッドをモチーフにした曲だけではなく、描写音楽みたいなのをやったり、晩年はシュトックハウゼンにつながるアヴァンギャルドなことをやったりと、多面的な活動をした面白い人です。私もまだほんの一部の曲しか知らないので、これから掘り下げていきたいと思っています。

4)アロン・コープランド組曲「ロデオ」より“ホウダウン”』演奏:レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルハーモニー

コープランド(1900-1990)もアメリカの作曲家で、アメリカ民謡を研究し、「ビリー・ザ・キッド」「アパラチアの春」「ロデオ」といったバレエ音楽にその成果を発揮しました。他には管弦楽曲「エル・サロン・メヒコ」も有名です。さて、今回選んだこの曲はプログレ・ファンなら耳に馴染んでいるはず。エマーソン・レイク&パーマーがアルバム『トリロジー』でカヴァーしてるんですね。ちなみにELPは後年「四部作」で同じコープランドの「庶民のファンファーレ」を取り上げています。

5)アルベルト・ヒナステラ『ピアノ協奏曲第1番第3楽章“トッカータ”』演奏:エンリケ・バティス指揮/メキシコ市立フィルハーモニー管弦楽団,ピアノ/オスカー・タラーゴ

ELP第2弾。ELP最高傑作『恐怖の頭脳改革』に「トッカータ」として収録されていた曲の元ネタです。これは作曲者のヒナステラも絶賛した、キース・エマーソン渾身のカヴァーとなりました。さて、ヒナステラ(1916-1983)はアルゼンチンを代表するクラシック系の作曲家。アストル・ピアソラの師匠としても有名です。アルゼンチン色が濃く、バルトークを思わせるアグレッシブな作風でバレエ音楽エスタンシア」や「ハープ協奏曲」「ギター・ソナタ」などかっこいい曲が多いですよ。

6)シルベストレ・レヴェルタス『センセマヤ』演奏:エンリケバリオス指揮/メキシコ・アグアスカリエンテス交響楽団

今度はメキシコの作曲家、レヴェルタス(1899-1940)です。「センセマヤ」は彼の代表曲のひとつで、 「蛇殺しの唄」というニコラス・ギエンの詩にもとづく管弦楽曲です。執拗なオスティナートと土俗的な雰囲気が伊福部昭を思わせるものがありますね。

7)アストル・ピアソラ『タンティ・アニ・プリマ 』演奏:大萩康司(ギター)、チョウ・チン(チェロ)

ここで少しクール・ダウン。ピアソラの名曲をクラシック・ギターとチェロのデュオでお届けします。ピアソラについては今さら説明は不要でしょう。彼もまたクラシックとポップス界の両方に大きな功績を残した人でした。攻撃的なイメージが強いですが、この曲や「天使のミロンガ」などバラード系にも名曲が多いんですよね。

8)コダーイゾルターン『組曲「ハーリ・ヤーノシュ」より“ウィーンの音楽時計”』演奏:アンタル・ドラティ指揮/フィルハーモニア・フンガリ

基本的にアメリカ大陸の作曲家を中心としている今回のセレクトですが、ちょっとヨーロッパへ浮気します(笑)。コダーイ(1882-1967)はハンガリーを代表する作曲家。彼もコープランドやグレインジャー同様、ハンガリーの民謡を詳細に収集し、それを生かした曲を多く残しています。また、無伴奏チェロ・ソナタはもはや現代のチェリストに欠かせない名曲となりました。さて、「ハーリ・ヤーノシュ」はオペラ(といっても本格的なものではない)の音楽を組曲としたもの。ハーリ・ヤーノシュとはハンガリーでは知らぬ者のない伝説上の人物だとか。「ウィーンの音楽時計」は彼が兵隊となってウィーンへやってきた場面で流れる曲です。

9)アラム・ハチャトゥリアン組曲「マスカレード」より“マズルカ”』演奏:ロリス・チェクナヴァリオン指揮/アルメニアン・フィルハーモニック・オーケストラ

「剣の舞」で有名なハチャトゥリアンですが、他にも魅力的な曲が多いんですよ。今回は優雅な小品を選んでみました。本当はヴァイオリン協奏曲を選びたかったのですが、収録時間が長くなってしまうので断念。

10)ダリウス・ミヨー組曲スカラムーシュ」より“ブラジレイラ”』演奏:ミシェル・ベロフ(ピアノ)、ジャン=フィリップ・コラール(ピアノ)

ダリウス・ミヨー(1892-1974)はフランスの作曲家で、プーランクなどと共に「フランス6人組」の一人とされています。一つの曲で複数の調性を同時に用いるのが得意技で、元ゲルニカ、上野耕治は彼に大きな影響を受けています。ミヨーは25歳から27歳にかけて、ポール・クローデルの秘書としてブラジルヘ滞在したことがあり、そのときの印象を基に「ブラジルの郷愁」など、いくつかの作品を残しました。今回取り上げた曲もそのひとつですね。かなり自分流に消化しているので、ぱっと聴いてブラジルっぽいとは思えませんが。ピアノの連弾曲ということで、のだめと千秋の演奏シーンを想像しながらお聞きください(笑)。

11)クーネ『エレベーター・ミュージック』演奏:湯浅卓雄指揮/シドニー交響楽団

この曲は一応、コンサートのラス曲という扱いで、景気の良いものを選びました。オーケストラによる狂騒的なルンバにあえてBGMの代表ともいえる「エレベーター・ミュージック」の題名をつけちゃうのが、皮肉なユーモアを感じさせるオーストラリアの作曲家、クーネ(1956-)。あまりこの人について詳しいことは分からないのですが、クラシックとポップスの壁を破ろうとする試みを行ってる人のようですね。

12)フランク・ザッパ『ピーチズ・エン・レガリア』演奏:アンサンブル・モデルン

アンコールとしてザッパ登場!ザッパ最晩年の作品『イエロー・シャーク』でザッパ指揮の下驚異的なアンサンブルを披露した団体が、ザッパ亡き後制作したザッパ作品集からの選曲です。オリジナルはアルバム『ホット・ラッツ』収録。ザッパ・ファンなら皆知ってる名曲中の名曲ですね。ザッパもロックだけに留まらず、現代音楽の分野でも優れた作品を残した人であり、そういった意味で彼はガーシュインの後を継ぐ、まぎれもない「アメリカ音楽の作曲家」だったといえるのではないでしょうか。こうしてこのセレクトは期せずして最初と最後がうまく円環としてつながった形となりました。