第16回セレクト合戦「秋の和み」

今回のセレクトのテーマが決まったとき、まず思い浮かんだのは‘シンプルでアコースティクな響きを持つ曲集をつくる’ということだったのですが、どうもその路線はライバルが多そうな予感がしたことと(笑)、前回の「真夜中に聴きたい音楽」と雰囲気が似てしまいそうな気がしたので断念。その裏返しとして思いっきりゴージャスに作ってみようか、とひらめいて選曲してみました。オープニングとエンディング、全体のクライマックスとなる11曲目をのぞけば、歌もの2曲+インストでひとつの固まりになるように構成しています。第一幕、第二幕・・・といった具合に演劇的な雰囲気を出してみたかったのですが、いかがでしたでしょうか?

1)武満徹『波の盆』

波の盆

波の盆

岩城宏之指揮・東京コンサーツによる演奏。今年は武満徹没後10周年なのでなんとかセレクトに彼の曲を入れたかった。また岩城宏之の追悼の意味もあります。監督・実相寺昭雄、脚本・倉本聰、音楽・武満徹という組合わせで製作されたTVドラマのメインテーマで、グロッケンが微かに響く冒頭から典型的な“タケミツ・トーン”が響き、やがて澎湃と湧き上がってくる主旋律が美しい。華美になりすぎる一歩手前で抑えたオーケストレーションが見事ですね。武満の隠れた代表作といってもいいと思います。

2)Rufas Wainwright『It's Only A Paper Moon』

ストーミー・ウェザー~ハロルド・アーレン作品集

ストーミー・ウェザー~ハロルド・アーレン作品集

ルーファス・ウェインライトの中性的なヴォーカルとヴァン・ダイク・パークスによる華麗なオーケストラ・サウンドがこのスタンダードに新たな光を当てました。ハル・ウィルナーがプロデュースしたハロルド・アーレン作品集からの選曲です。

3)Kate St. John『Don't They Know You've Gone』

セカンド・サイト

セカンド・サイト

元ドリーム・アカデミーの才女が残した2ndソロ収録。温かい声に和まされます。またソロ・アルバム出してくれないかな?
過去のレビューより→ http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20040222

4)Burt Bacharach 『In Our Time 』

バート・バカラック現時点での最新オリジナル・アルバムからの選曲です。シンプルなモチーフを繰り返しながらも飽きさせないのは流石の名人芸。

5)Procol Harum 『Grand Hotel

Grand Hotel

Grand Hotel

ちょっとここで少し(?)盛り上げましょう。中期プロコル・ハルムの代表曲です。展開がめまぐるしく変化する曲ですが、渋いヴォーカルとずっしりしたバンド・サウンドがこの曲に気品と落ち着きを与えていますね。

6)Paul McCartney 『English Tea』

Chaos & Creation in the Backyard

Chaos & Creation in the Backyard

巨匠の曲が続きます。ポール・マッカートニーの(ロック・アルバムとしては)最新作から。「フォー・ノー・ワン」と「マーサ・マイ・ディア」の併せ技みたいな曲ですが、ポールらしい小粋なセンスが光ります。私はこういうポールが一番好きでねす。

7)The 12 Cellists of The Berlin Philharmonic Orchestra『Something』

ビートルズ・イン・クラシック

ビートルズ・イン・クラシック

もちろんビートルズつながり。ベルリン・フィルハーモニーの12人のチェロ奏者によるユニットが奏でる「サムシング」です。

8)This Mortal Coil『Mr. Somewhere 』

Blood (Reis)

Blood (Reis)

4ADレーベルのオーナー、アイヴォが自ら率いたプロジェクト「ディス・モータル・コイル」の3作目にしてラスト・アルバムからの曲です。可憐なヴォーカルを聞かせてくれるのはキャロライン・クロウリー細野晴臣も彼女の声が好きだと以前語っていましたね。

9)Marianne Faithfull『She』

ア・シークレット・ライフ

ア・シークレット・ライフ

ツイン・ピークス」の音楽で知られるアンジェロ・バタラメンティがマリアンヌ・フェイスフルと組んで発表したデカダンスな香り漂うアルバムから選びました。バタラメンティによるオリジナルなのに既にスタンダードの風格を感じさせますね。

10)Yo-Yo Ma『Giuseppe Tornatore Suite - 1. Playing Love From The Legend Of 1900』

プレイズ・モリコーネ

プレイズ・モリコーネ

次の曲への序奏的意味合いを持たせています。現代を代表するチェリストヨーヨー・マがエンリオ・モリコーネ作品を作曲者自身の指揮によるオケをバックに弾いたアルバムからの選曲。小品ですがヨーヨー・マのチェロの魅力は充分伝わると思います。

11)Emerson, Lake & Palmer『Closer To Believing』

ELP 四部作(紙ジャケット仕様)

ELP 四部作(紙ジャケット仕様)

ELP名義ですがグレッグ・レイクのソロ曲です。『ELP四部作』はメンバー3人のソロ作品+グループ曲という構成のアルバム。キース・エマーソンがピアノ協奏曲を手がけたことに刺激を受けたグレッグ・レイクは負けじと自分のソロ曲にもオーケストラを導入し、甘いラヴ・ソング集をつくりあげました(作詞はピート・シンフィールド)。あまりコアなELPファンには評判がよろしくないのですが、私は昔から「大げさだなあ」と思いつつ愛聴してまして、いつかセレクトに使いたいなあとチャンスを狙ってたんです。今回念願叶ってセレクトのクライマックスに使うことができて満足してます(笑)。

12)崎川晶子『Lisa』

上畑正和:チェンバロ作品集

上畑正和:チェンバロ作品集

正式な収録アルバムのタイトルは「夢見る翼 Dream of NIKE」。今回のセレクトはずっとオーケストラ・サウンドで固めているのですが、最後はスッキリとしてしかも余韻を残した終わり方にしたいと思い、このチェンバロ独奏曲を持ってきました。木曜洋画劇場のオープニング・テーマをはじめ、様々なCM音楽などを手がけている作曲家、上畑正和が崎川晶子のために書き下ろした曲を集めたアルバム収録曲で、そこでも最後を締めくくっています。このアルバムは曲ごとにチェンバロの調律を変えて曲想にあった響きで奏でられているのが特徴です。その繊細で優しい響きはこのセレクトのエンディングにふさわしいと思います。