非常階段 starring 初音ミク『初音階段』

初音階段

初音階段

もはやすっかり一つのジャンルとして定着した感のある初音ミク。もともとテクノ・ポップ〜ニュー・ウェイヴ的なサウンドと相性が良かったのですが、、ここにきてDCPRGのジャズ・ヒップホップや冨田勲のオーケストラ楽曲との共演など、ジャンルを越えたコラボレーションが盛り上がっています。
この非常階段とのコラボもそうした越境プロジェクトといえるでしょう。おそらく水面下では多くのP達によって同様の試みがなされていたのではないかと推測しますが、ついにノイズ・ミュージックの分野にまで進出してきたのかと、リリース情報を聞いたときは驚きを禁じ得ませんでした。
収録曲は全4曲。まずPVも制作された緑魔子のカヴァー「やさしいにっぽん人」に耳を奪われました。不穏な空気をたたえたバックにミク特有の非人情なヴォーカルが重なり、時折鋭いノイズが噴出。World's end Girlfriendにも通じるところのある、耽美的かつ緊張感のある世界が広がっているのです。続くじゃがたらのカヴァー「タンゴ」もゆらめくようなミクのヴォーカルとノイズの対比が印象的です。
ここまでは初音ミクの方に力点がおかれた楽曲でしたが、3曲目の「不完全な絵画」は両者のバランスが取れた仕上がり。ノイズを背景に淡々とした調子のミクの朗読が重なる様は、本作の中でもっともコラボレーションと呼ぶにぴったりな楽曲といえるのではないでしょうか。
そして最後の「hatsune-kaidan」は完全に非常階段がミクを飲み込んだ、奔流のようなノイズ・チューン。ミクのヴォイスもここでは完全にノイズの一部と化し、まるでオノ・ヨーコのよう(笑)。
このように、収録時間約34分の中で初音ミクが徐々にノイズ化していくドラマを味わえる構成が本作の妙といえるでしょう。私にとっては毎日愛聴するような音楽ではないのですが、この先きっと、ふとした瞬間に無性にこの音を欲することがあるのではという予感がしています。