ケイト・ブッシュ『雪のための50の言葉』

雪のための50の言葉

雪のための50の言葉

セルフ・カヴァー集に続いてリリースされた、久々のオリジナル・アルバム。セルフ・カヴァー集も一応聴いてはいるのですが、どうもピンとこないままでした。今の落ち着いた声で昔の曲を歌われると、どうしても物足りなさを先に感じてしまうのですね・・・。ケイト自身にとっては必要なプロセスだったとは思いますが、残念ながらその魅力は私には伝わってきませんでした。
その点、このオリジナル・アルバムは昔の姿と比較することなく、こちらもじっくり向き合って聴くことができます。そして「やはりケイト・ブッシュはすごい」との思いを新たにしています。全7曲で65分。かつての『ドリーミング』などでみせた凝りまくったサウンドはここにはありません。おそらくケイト史上もっともシンプルなサウンド・プロダクションのアルバムで、まるで墨絵を思わせる幽玄の世界が悠然と展開していきます。アンビエントとも異なった、深い静寂が全編を支配しているのですが、そこにすっと浮かびあがってくるケイトやゲスト・ヴォーカルの声が深い奥行きを音楽に与えているのです。大きな目玉のひとつであるゲスト、エルトン・ジョンの歌はわりと熱いトーンですが、それさえも違和感なくこの音世界に溶け込んでいます。深まる静寂と幻想によって織りなされるケイト・ブッシュの新境地。なぜか近年のデヴィッド・シルヴィアンに通じるものすら感じてしまいました。