あまりにも長く“ロックの最高傑作”と呼ばれ続けた反動もあって、最近は少し評価が落ちているかもしれないこのアルバム。しかしロックがポップ・ミュージックの王座に君臨していた時代が終わった今こそが余計な先入観無しでこのアルバムを楽しめるかもしれません。改めて聴いてみると、
ビートルズが一番ロック離れしたアルバムなのでは、と思います。問答無用にロックといえるのはタイトル・チューンのリプライズだけ。ジョージは前作に引き続き
インド音楽に没頭、ジョンの曲は不思議なダウナー感を伴うものばかり、そして本作を牽引したポールの曲はブンチャ・ブンチャの2ビート系が目立つ。まるでロック以前のポピュラー音楽にオマージュを捧げているかのようです(分かりやすいのが「ホエン・アイム・・シックス
ティー・フォー」)。こうしたアプローチの音楽が当時の最先端の
サウンドを身にまとって登場したところが本作の面白さなのではないでしょうか。いわばヴァーチャル・
ノスタルジア・ミュージック。トータル・コンセプト・アルバムとしては実はかなりユルイつくりなのに通して聴くと不思議な統一感を感じるのも、ヴァーチャル・ノスタル
ジー効果なのではと思えます。聴く方が勝手に頭の中でどんどん物語を組み上げてしまうんですね。本作に影響を受けて陸続と登場したコンセプト・アルバムの方がコンセプトやストーリーははるかに練り上げられているのに、このアルバムの輝きが失せなかった理由がそこにあるのではないでしょうか・・・そして何よりも
ビートルズという存在が強烈な物語的存在であったのでした。