ザ・ビートルズ『プリーズ・プリーズ・ミー』

プリーズ・プリーズ・ミー

プリーズ・プリーズ・ミー

説明不要の(といったら、ビートルズのアルバムはどれも“説明不要”になってしまいますが)ビートルズ、デビュー・アルバム。リマスターされて音がくっきりして、ポールのベースの存在感が増し、よりバンドっぽい音になったような気がします。10時間で録音というほぼスタジオ・ライヴに近い方法で制作されたこともあり、勢いがストレートに伝わってくるのがこのアルバムの大きな魅力です。レコーディング当日、ジョンが風邪をひいていたため、声がややハスキーになっているのですが、それがかえって「ツイスト&シャウト」のシャウトに迫力を加えた結果となりました。そんな荒々しさの中にも洒落た感覚が随所に感じられるのも聴き逃せないところで、その典型的な曲が「アスク・ミー・ホワイ」。個人的にこのアルバムの中で最も好きな曲です。
“処女作に全てがある”という言葉がありますが、さすがにこのアルバムにビートルズの全てが詰まっているというのは言いすぎになるでしょう。けれども、弾むように始まる「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の冒頭のカウントとどこかあやしげな雰囲気の『リボルバー』冒頭の「タックスマン」のカウントや、「ツイスト&シャウト」での歌う歓びに満ちているジョンのシャウトと『アビー・ロード』の「アイ・ウォント・ユー」で聴かれる複雑な感情が込められたシャウトなど、後年のアルバムと聴き比べることで、彼らの成長の足跡、たどり着いた場所に思いをはせるという楽しみ方もこのデビュー・アルバムは提供してくれるのです。