テオ・トラヴィス&ロバート・フリップ『スレッド』

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結成40周年を迎えたというのにさっぱり音沙汰がないキング・クリムゾンですが、フリップ先生個人は精力的な活動を続けているようで、昨年発表されたこのアルバムもその成果のひとつです。テオ・トラヴィスはソフトマシーン・レガシーに参加したり、デヴィッド・シルヴィアン等と共演するなどジャズ・シーンに留まらず活躍している管楽器奏者。本作は2007年1月に行われたセッション音源を、ポーキュパイン・ツリーのスティーヴ・ウィルソンが編集して完成させたもの。フリップが管楽器奏者と共演するのは久々のように思えますね。内容はというと、ジャズ的な丁々発止のインプロヴィゼーションのやり取りを期待すると裏切られます。フリップのサウンドスケープが描き出すたゆたうような音空間に、トラヴィスのアルト・フルートとソプラノ・サックスが穏やかに交じり合うアンビエント・ミュージックなのです。私は叙情味が増した近年のフリップのサウンドスケープはお気に入りなのでその延長線上にある本作も好きです。ひんやりとした感触のあるフリップのサウンドと暖色系のトラヴィスの音色の相性は思いのほか悪くないし、落ち着いたフルートの音色を聴いていると「海へ」のような武満徹室内楽曲を連想する瞬間も多々ありました。“穏やかに交じり合う・・・”と上には書きましたが、独特の緊張感も底には流れていて、決してだらけた音楽ではないことは最後につけくわえておきます。