トッド・ラングレン『ニアリー・ヒューマン』

ニアリー・ヒューマン

ニアリー・ヒューマン

現在も活発に活動しているトッド・ラングレンですが、彼の全盛期となるとやはりベアズヴィル時代をあげる人がほとんどでしょう。このアルバムはベアズヴィルを離れ、ワーナーからリリースした作品で、『ア・カペラ』に続くものとなります。このアルバムの大きな特色はワンマン・マルチ・レコーディングから離れ、大勢のゲストを招いたオーヴァー・ダビングなしのセッション形式で制作されたこと。かつて名作『サムシング/エニシング』の後半で既に同様の試みを行っていますが、やはりトッドというと孤高のマルチ・ミュージシャンというイメージが強かったので、ここでのアプローチには意表をつかれました。しかし内容は優れたもので、ブルジョワ・ダッグス、チューブスのメンバーを演奏の中心に据え、ヴォーカルに徹したトッドが見事なブルーアイド・ソウルを全編に亘って聴かせてくれます。ソロ・デビュー当初は線が細かった彼のヴォーカルもユートピア・スタジオを設立したころ(アルバムでは『ハーミット・オブ・ミン・ホロウ』の辺り)からめきめきと力強さを増し、ここに至って実に堂々とした歌声となりました。トッドは本作をひっさげて来日公演も行っており、私も中野サンプラザ公演を聴きに行きましたが、曲はもちろん、歌の素晴らしさが印象に残ったコンサートでしたね。
歌だけではなく、曲も勢いのあるポップなメロディーが並んでおり、過去の名作にも決してひけを取るものではありません。特に2曲目「ウェイティング・ゲーム」、3曲目「パラレル・ラインズ」はこの時期の代表曲と呼んでもよいのでは?コステロのカヴァー「ツー・リトル・ヒットラーズ」もうまくアルバムに溶け込んでいます。トッドのソロというと突然ハード・ロック調の曲が出てきたりと良く言えばヴァラエティ豊か、悪くいえばあまりまとまりがない、という作品も多いのですが、このアルバムは全編ソウル・レヴュー調で統一されているので、最初の雰囲気が肌に合えば一気に聴き進むことができます。続く『セカンド・ウインド』と共にもっと評価されて良いアルバムだと思います。

<「Nearly Human Tour」から>

Todd Rundgren - Parallel Lines

Todd Rundgren - Something To Fall Back On(※オリジナルは『ア・カペラ』収録)