「好きか嫌いか」と聞かれたら「好き」と答えるものの、熱烈に好きだとは言えない。私にとって
フォーレという作曲家は長年そういう位置にあり続けました。フランスの作曲家といえば、やはり
ドビュッシーと
ラヴェルを長年愛聴してきましたし、それは今でも変わりありません。しかし、いつの間にか―父が亡くなったときに「レクイエム」をひたすら聴き続けたときからかもしれません―水が土にしみこんでいくように、
フォーレの音楽は私にとってかけがえのないものになっていきました。一連の「
夜想曲」や「
舟歌」に代表される
ピアノ曲、「珠玉の」という言葉がふさわしい歌曲の数々など愛すべき曲は多いのですが、最近特に心惹かれるのが
室内楽曲、特に今回取り上げたアルバムの2枚目に収録されている
ピアノ五重奏曲の2曲です。作曲のキャリアとしては中期の締めくくりにあたる第1番の透明感とやわらかな響きも心地よいのですが、なんといっても晩年を代表する作品である第2番が聴けば聴くほどに心奪われる名曲で、ここにはフランス音楽らしい典雅さと
ベートーヴェンや
ブラームスに負けない深みのある味わいが奇跡的に両立しているのです。