大萩康司『想いの届く日』

想いの届く日

想いの届く日

私の中では、キューバやブラジルなど、ラテン系のギター曲のスペシャリストというイメージが強かったギタリストですが、このアルバムではポピュラーな小品を集めて演奏しています。親しみやすさと気品さのバランスがうまく取れていてじっくり味わえる一枚になっているのがさすが。村上龍が「泣きたくなるようなきれいな音色」と形容しているのですが、決して大げさなレトリックではありません。
アルバムの中心をなしているのは、武満徹がポップスをギター向けにアレンジした「ギターのための12の歌」。武満ならではの響きに対する繊細な感性に裏打ちされた名編曲がならび、特に4曲のビートルズ・ナンバーは多くのギタリストによって取り上げられていますが、12曲まとめて聴けるアルバムはそれほど多くないので貴重です。「早春賦」や「星の世界」のように小さい頃口ずさんでいた曲が瑞々しく響いてくるのがうれしいし、なかでも曲の奥に秘められた甘美さを絶妙にすくいとった「インターナショナル」はもっと演奏されても良いでしょう。
もちろん、その他の曲も悪いわけがなく、ウェイン・ショーター曲「ディアナ」と韓国民謡「アリラン」が続いて演奏されても違和感がないのがすごいです。アンリ・サルバドールで最後をしめるのも心憎い演出。