グレン・グールド『バッハ:ゴールドベルク変奏曲』

映像においてもいくつか興味深い作品を残したグレン・グールドですが、これは晩年に再録音した「ゴールドベルク変奏曲」の映像版。びっくりするくらい低い椅子に座り、腕の重さをほとんど使わず指の力だけで鍵盤を押える。顔は極度に鍵盤に接近し、絶えず歌いながら演奏する。たまに片手が空くと、その手で指揮を取るetcといった有名な演奏姿勢がたっぷりと楽しめます。ピアノにかぶりつくようなその姿に最初のうちは奇異の念を起こさずには居られませんが、音楽が進むにつれそのようなことはどうでもよくなってきます。鍵盤からこぼれおちていく音の粒が連なる響きが、グールドの心身を浸し、また聴く者の心身を浸していく。それは単純な喜怒哀楽を超えた、“音楽の歓び”としかいいようのない体験なのですから。