アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団『レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ:交響曲第5番ニ長調』

V・ウィリアムズ:交響曲全集IV 交響曲第5番&バス・テューバ協奏曲

V・ウィリアムズ:交響曲全集IV 交響曲第5番&バス・テューバ協奏曲

私がクラシックに興味を持つようになったのは小学校の高学年辺りからで、中学になってからは名曲の入門書を手にとることもありましたが、そこにはイギリスの作曲家の名はほとんど無かったように記憶しています。今でこそイギリスのクラシック音楽のアルバムも容易に入手できますが、当時はよほど熱心なリスナーではないと見つけることも難しかったのではないでしょうか。そもそも「イギリスのクラシック音楽」に対する評価そのものが今と比べて極端に低く、「イギリスはビートルズの登場まで音楽的には不毛の国だった」とまで言い切った文章を読んだこともあります。その頃聴いたイギリスのクラシックといえばホルスト「惑星」とブリテン「青少年のための音楽入門」ぐらいだったはず。不幸なことに中学生の私には「惑星」は“木星が終わると急につまらなくなる曲”で、「青少年〜」の方は“どこが面白いのかよく分からない曲”に過ぎず、イギリスのクラシックを自発的に聴くことはなくなりました。ブリティッシュ・ロックにはあれほど夢中になったというのに!

そんな訳で、イギリスのクラシックを積極的に聴くようになったのはここ数年のことに過ぎません。この音楽に親しめるようになったのはブリティッシュ・フォークに夢中になったことが一番の原因でしょう。中学の時から20年以上の時を経て、ようやく楽しめる下地が備わったといえます。中でもヴォーン・ウィリアムズはイギリスの民謡の採集や教会音楽を研究していたこともあり、とても“イギリスらしさ”を感じさせる作曲家です。なにせイギリス(というよりイングランドと書くべきか)らしさを主要な価値基準として『200CDブリティッシュ・ロック』を著したイアン・サウスワースが、その冒頭に「あげひばり」を英国田園風景を象徴する音楽の例として挙げるくらいなのですから。

今回取り上げた交響曲第5番にも牧歌的な“イギリスらしさ”を感じ取ることができます。しかし、ただ牧歌的のひと言では片付けられない深い祈りがこの曲には込められています。第2次世界大戦でドイツ軍による空襲の続く中書かれたこの曲は、穏やかな響きとコラールが全編を支配している静かな音楽で、曲が進むにつれ、作者の平和への敬虔な願いがじんわりと心に染みわたっていきます。初演は1943年6月。作曲者自身の指揮でロンドン・フィルハーモニーのプロムナード・コンサートにおいて演奏され、聴衆に深い感動を与えたそうです。2008年はヴォーン・ウィリアムズの没後50周年。これまで先に挙げた「あげひばり」や「グリーンスリーヴスによる幻想曲」といったポピュラーな楽曲にはそれなりに親しんでいましたが、他の作品はほとんど聴いたことがありませんでしたので、これを機会にじっくりと彼の音楽に向き合っていきたいと考えています。