ホセー・アントニオ・メンデス『フィーリンの誕生』

フィーリンの誕生

フィーリンの誕生


なんかね、どんな音楽にせよ、知ってるような顔はできないなって思った。(中略)知らない曲でいいのがいっぱいあるわけ。なんと広い世界なんだろう、と思うんだ。僕が知ってる音楽なんてのは、たかだかほんの一握りで。世の中にはまだまだ、いい曲がたくさんあるんだな、と。うん、汲めども尽きないね・・・


ミュージック・マガジン誌11月号に掲載されている細野晴臣のインタビューからの引用です。私も含めて、このアルバムに初めて接した人のほとんどがこのような感想を持つのではないでしょうか。“フィーリン”とはひとことで言えばキューバのモダン歌謡。1950年代にカンシォーンやボレロから生まれた新しい感覚の音楽でした。その立役者であるホセー・アントニオ・メンデスがメキシコで録音した1stアルバムと同時期のライヴ音源をコンパイルしたのがこのアルバムです。オルガン、ヴァイオリン、ギターといった具合に決して目新しい楽器が使われているわけではないのに、新鮮で洗練された響きが聴こえてくるのには驚かされます。ホセーのちょっとハスキーなヴォーカルも、それほど上手くはないのですが、実に味があっていい。ボサノヴァに通じる洒脱さもあって、静かな夜にじっくり耳を傾けるのにふさわしい音楽となっています。