『マラッカ』『1980X』といった名作を残した
PANTA & HAL解散後、ソロとして再出発した81年作ですが、これまでのイメージと全く異なる突然のポップ路線への転向に当時のファンクラブが
不買運動を起こした程の問題作となりました。現在の視点で見るならば、彼が
フランス・ギャルなどの60年代ポップスを愛好していることや、古くは
岩崎良美や
堀ちえみから、最近では制服向上委員会に至るアイドルへの楽曲提供歴を知っているので、「なるほど、こういうのもありだろう」と思えるでしょうし、『BGM』〜『テクノデリック』後『浮気なぼくら』を発表したYMOや、『マニア・マニエラ』発表中止後『青空百景』をリリースした
ムーンライダーズのような、“ヘヴィーなアルバムを制作後、いきなりポップなアルバムを出す”流れに先鞭をつけた作品として80年代初頭の日本のロック史に位置づけることもできるでしょう。しかし、やはりリアルタイムで接したファンにとっては相当衝撃的なものであったであろうことは想像に難くありません。2拍3連のリズムや、「♪シャララ〜」といったフレーズ、「恋はあせらず」のイントロのあまりにも有名なベース・パターンといった60年代ポップを特徴づける
サウンドがあちこちに出てくるし、PANTAの歌唱も肩の力がぬけたリラックスしたもの。単体として聴く限りではなかなか楽しいアルバムなのです。
ムーンライダーズ・ファンとしては
鈴木慶一こそ不在なものの、作詞に
鈴木博文、
佐藤奈々子が起用され、ギターで
白井良明が参加、アレンジは
矢野誠と、関連人脈がずらりと並んでいて、
PANTA & HALよりもはるかに
ムーンライダーズを思わせる
サウンドになっているのが面白い(ライナーノーツを読むと
PANTA自身もそのことを認めています)。個人的に残念なのは全体的にややスピード感に欠けるように感じられること。もうほんのちょっとだけエッジが立っていれば完全に私好みになっていたのですが。