Tir na nog『Tir na nog』

Tir Na Nog

Tir Na Nog

創刊されたばかりの音楽誌『ロックス・オフ』01号の連載企画に「私の100枚」というものがあります。記念すべき第1回は鈴木慶一による“オレの100枚”。そのラインアップはムーンドッグや映画「スパイナル・タップ」のサントラ盤といった、かねてからその偏愛を表明していたアルバムやカフェ・ジャックスやセイラーのような70年代ムーンライダーズサウンドに大きな影響を与えた作品のみならず、アントニー・アンド・ザ・ジェイソンズやデヴェンドラ・バンハートといった現在の音楽シーンで異彩を放つものまで幅広い範囲に及び、慶一が今なお優れた“リスナー・ミュージシャン”であることを示してくれた、ファンにはとても興味深く読めるものでした。ボブ・ディランでは怪作「セルフ・ポートレート」、フェアポート・コンヴェンションではサンディ・デニーリチャード・トンプソンもいなくなった時期の「ババコーム・リー」をセレクトする(ただしリチャード・トンプソンのソロ「ヘンリー・ザ・ヒューマン・フライ」も選ばれている)といったひねりっぷりも“らしい”ところですね。
その中にあってひっそりと選ばれていたのが71年発表のこのアルバムです。 グループ名の“ティア・ナ・ノグ”とは古代ケルト神話に出てくる「常若の国」のこと。浦島太郎を思わせるような伝説が伝わっていたりします。そんなことからもうかがえるように、彼らの出身地はアイルランドのダブリンなのですが、あまりケルト色は強くありません。2本のギターを中心としたシンプルなアンサンブルで優しいメロディーが淡々と歌われていく滋味あふれるアルバムです。ランバート&ナッティカムの名盤『アット・ホーム』を思わせるところがありますね。1st以降はだんだんポップ色が出てくるのですが、地味ではあるけれどこの1stの味わい深さがやはり格別です。