久々にこの人の本を読みました。まともな感想はとても書けませんが、冒頭、著者名も書名も伏せられたまま「赤」の氾濫が述べられ、「
夢魔的」な光景が現出するところで「ああ、この人らしいなあ」とワクワク。序盤で執拗に繰り出される「赤頭巾」に始まり、鴎外、
ヴァージニア・ウルフ、
漱石、
正岡子規に
コナン・ドイル、
ダシール・ハメットまで飛び出してきて飽きさせません。面白いけど読後何となく煙にまかれた感じが残るところも“らしい”です。「赤」なんていくらでも象徴的に解釈できる素材だけど、決してそういう分析にはいかずに一冊通してしまうのはやっぱりすごいなあ。かつての「物語批判序説」もそうだけど、あくまで「序説」にとどまって、決して「本論」に行こうとしないところにこの人の魅力のひとつがあると思います。予告編だけを上映する映画館みたい。もちろんその予告編は
ゴダールや
ヒッチコック並みの面白さなんだけど。