Simeon Ten Holt『Complete Multiple Piano Works』

huraibou2007-03-21

プッチーケイイチさん(id:putchees)に教えていただいた11枚組のBOXセットです。ブリリアント・レーベルから発売されているので、値段も5000円前後とお買い得になっています。
シメオン・テン・ホルトのプロフィールについては、プッチーケイイチさんのところでも紹介されていますが、簡単に書くと、シメオン・テン・ホルトは1923年オランダ生まれの作曲家です。フランスでオネゲルとミヨーに師事した経歴もある人ですが、60年代にはセリー技法や電子音楽などの手法を用いた作品を発表していました。
転機が訪れたのは70年代。この頃から彼の作風はスティーヴ・ライヒフィリップ・グラス等に代表されるミニマル・ミュージックの影響を大きく受けた、ピアノによる音楽が中心となります。このBOXに収録された楽曲群は彼が独自の作風を確立した、70年代以降の複数のピアノによる作品を収録しています。


その音楽の特徴でまず挙げられるのはとにかく長いこと。11枚組のセットなのに6曲しか収録されていません。4台のピアノで奏でられる1曲でCD2枚、時間にして2時間に亘る大曲が5曲とピアノ・デュオの曲が1曲という構成に、最初は戸惑いと不安を感じずにはいられませんでした。ところが聴き始めると、その心地よさに聴き通すのが全然苦にならなかったのです。そう、シメオンの音楽のもうひとつの特徴は親しみやすいメロディーをもつエレガントさにあります。どの曲も“Section”または“Episode”と名づけられた多数のパートから成り立ち、作曲者の言によると「演奏者に最後まで責任を負わせるため」パートの演奏順や、繰り返しの回数はかなり演奏者の自由に委ねられているフレキシブルな構成をもっているのですが、心地よさはどの曲にも一貫してあるものです。


例えば『Canto Ostinato』をプレーヤーにかけると、坂本龍一マイク・オールドフィールドを思わせる知的でありながら牧歌的な雰囲気をもった主旋律が耳に飛び込んできます。ポスト・ロックにも通じる感覚を持った魅力的なテーマなのですが、それが以降2時間に亘って反復されながら多様な姿を見せていきます。必ずしも漸進的に変化していくだけではなくて、セクションによっては急に和声に厚みを増したりするなど、時折はっとするような展開になるので最後まで興味深く聴きとおすことができます。
プッチーケイイチさんも書かれていますが、その他の曲は現代音楽的というより、これまでのクラシックの伝統を感じさせる響きを持つものが多いです。細かい音符の動きがバッハなどのバロック音楽を感じさせる『Horizon』、ショパンの小品のような愛らしいサロン的雰囲気がある『Meandres』など、どれも魅力的。本国オランダでも人気があるというのも納得です。方法の冒険と優雅さが絶妙のバランスで共存しているシメオン・テン・ホルトの音楽は、ライヒやライリー、グラスやモートン・フェルドマンなどとはまた異なった魅力を持つミニマル・ミュージックの麗しき果実といえるのではないでしょうか。

関連リンク

HMVの紹介ページです。4台ピアノの演奏写真も掲載されています。

http://www.hmv.co.jp/news/newsdetail.asp?newsnum=603010050