ヴァン・モリソン『ヴィードン・フリース』

Veedon Fleece

Veedon Fleece

渚十吾がこのアルバムについて『毎年冬になると聴いているが、いつまでもその“暖炉の炎の前で聴いている感”は変わることがない』と書いているのを読んだとき、うまいこというなあ・・・と感心しました。当時のヴァンはアメリカで生活していたのですが、このアルバムの制作直前に故郷のアイルランドを旅しています。その旅がアルバムの音楽性に大きく影響を与えているであろうことは想像に難くありません。ホーン・セクションを排し、時折ストリングスが入るものの、基本的にシンプルな編成で録音されたサウンドによって本作はヴァンには珍しくR&Bの匂いが希薄な、フォーク・ロック色の濃いものとなりました。後年チーフタンズとがっぷり四つに組んでつくった作品程アイリッシュ・ミュージックの要素が前面に出ているわけではないのですが、フルートやリコーダーが絡んでくるとやはりどこかしらアイリッシュぽさを感じずにはいられません。この曲がどう、というより作品全体が醸し出す雰囲気がなんともいえず神秘的なものとなっている、奥深い魅力を持つ名作だと思います。