ジョアンナ・ニューサム『Ys』

Ys

Ys

彼女は驚嘆すべき、そして慎み深い人物だ。私にとってこれ以上の挑戦も、そして発見の喜びもこれまでなかった。
(ヴァン・ダイク・パークス

まるでブライアン・ウィルソンのことを忘れてしまったかのような発言をしているヴァン・ダイク・パークスですが(笑)、そういわせるだけのことはある傑作です。ハープの弾き語りという特異なスタイルとビョークを思わせるヴォーカルを持つジョアンナ・ニューサムの2ndアルバムは共同プロデュースとオーケストラ・アレンジにヴァン・ダイク・パークスを迎え、さらにハープとヴォーカルの録音をスティーヴ・アルビニ、ミックスをジム・オルークが手がけるという強力な布陣によって制作されました。2004年のデビュー・アルバムは試聴して「これってメルヘンチックなビョークだよなあ」といった印象しか持たずにやり過ごしていましたが、本作にはヤラレました。ここまで化けるとは思わなかったです。

全5曲で収録時間が55分。まるでプログレのアルバムのような構成を持つ本作ですが決してだれることはありません。前作に比べて格段の説得力をもったジョアンナのヴォーカルは星や動物、植物の暗喩がイメージ豊かにちりばめられた(まさに“ジョアンナのヴィジョン”!)、スピリチュアルで物語性豊かな歌詞を紡ぎだし、ハープのキラキラした音色は天上から降り注いでくるかのよう。そして大地や海を思わせる大きなうねりをもったヴァン・ダイク・パークス謹製のオーケストラ・サウンドがこの音楽に豊麗さとドラマティックな起伏を与えています。壮大でありながら精緻な響きをもつ音世界は圧巻の一言。これぞ21世紀の『ソング・サイクル』と呼びたいアルバムです。

このアルバムをミックスしていた或る時、僕はジョアンナに言ったんだ。“広告のアイデアがひとつ浮かんだよ。君の写真、そしてその上に‘music’という言葉があって、その下に‘is back’ってあるんだ”ってね。つまり、このレコードは(まさに音楽というものを)思い出させるだけでなく、そもそも僕がなぜ音楽を愛するようになったかということにも繋がるんだ。
(ライナーノートより、ジム・オルークの言葉を引用)

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