コノノNO.1『コンゴトロニクス』

Congotronics

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ムーンライダーズの新作『MOON OVER the ROSEBUD』の中の1曲「腐った林檎を食う水夫の歌」は終盤になって“一番目のガイコツがカリンバを弾いて、二番目のガイコツがアコーディオンを弾いて・・・”と歌われます。ガイコツは六番目まであることからこれらがムーンライダーズのメンバーを指すことはファンには容易に理解できることなのですが、ひとつ不思議だったのは、なんで一番目のガイコツが弾く楽器がカリンバなのか?ということでした。
一番目のガイコツはこの曲の作者である鈴木慶一自身を指すことも他のガイコツの担当楽器(ファンには蛇足と思いますが、アコーディオン=岡田、ヴァイオリン=武川、太鼓=かしぶち、ギター=良明、ベース=博文ですね)を見れば理解できるのですが、自分のところになってなぜ唐突にカリンバを出してきたのかが喉に刺さった小骨のように数日間頭の中に引っかかっていたんです。
その答えと思わしきものはタワレコにあったムーンライダーズのフライヤーに記されておりました。「新作をひも解く鍵?―レコーディング中によく聴いた音楽」と題されたコラムの中で慶一はアニマル・コレクティヴやフレイミング・リップス等と並んで今回取り上げたコノノNO.1を挙げていたんです。

カリンバはアフリカの民族楽器のひとつ。地域によってムビラやサンザやリケンベとも呼ばれていますが、共鳴箱に取り付けられた鋼のリードを親指ではじいて音を出す素朴な仕組みの楽器です。親指ピアノと訳して呼ぶ場合もありますね。その温かみのある繊細な音色と音楽性は例えば「ショナ・スピリット」などを聴けばたっぷりと味わえます。しかし、コノノNO.1はこの素朴な楽器になんとアンプを通してエレキ・ギターのごとくに使用しているのです。慶一の言葉を引用すると、

コノノはコンゴのバンドで親指ピアノを使っているんだけど、その音がスピーカーで増幅されていて、しかも凄いひずんでてさ。そんな音がリズムをリードしていくってことが驚きだったな。

ということになります。ミニマルでありながらふくらみがある、弾力的でポリリズミックなビートにひずんだカリンバの音がのっかるコノノの音世界は強烈なインパクトを与えますが、決して高圧的な音楽ではなく親しみやすくてユーモラスでもあることが大きな特徴で、思わず体を動かしたくなる楽しさに溢れています。マイクは手作り、ドラム・キットは自動車のホイールにとりつけた台所のなべだというのですが、それでこんなに懐の深いグルーヴを生み出すとは驚きです。音楽性もさることながら、このブリコラージュ的な知恵を活用したアマチュア的な姿勢に慶一は共感したのかもしれません。だからこそ、コノノのオマージュとして自分の弾く楽器をカリンバとしたのだと思うのです。
ところでこの文章を書くために改めて「腐った林檎を食う水夫の歌」に耳を傾けると最後の最後でエレクトロ・カリンバ的な音が聴こえてきたような気がしたのですが、これはひょっとしたら幻聴でしょうか・・・。