スクリッティ・ポリッティ『ホワイト・ブレッド・ブラック・ビア』

一応代表作である『キューピッド&サイケ85』をはじめとして、これまでに出ているアルバムは一通り聴いていますが、正直なんでこんなに評価されているのかピンと来ないままでした。7年前の前作『アノミー&ボノミー』も数回聴いただけで売ってしまったし・・・。今作を入手したのも「タワレコのポイントカードが貯まったから試しに聴いてみるか」という軽い動機でしかありません(なのでDVD付限定版ではなくて通常盤を選んでいます)。しかし本作は一発で気に入ってしまいました。昔から思い入れのあるファンにとっては異論のあるところでしょうが、私にとって本作はスクリッティ・ポリッティの最高傑作です。
このアルバムはグリーン・ガートサイドのソロ・プロジェクトの形態となって制作されたものだそうです。とはいえあの独特のハイトーン・ヴォイスもデジタルな質感を持つサウンドもそのまんま。10年前ならとてつもなく古臭く聴こえていたかもしれないサウンド・プロダクションですが、今の私にはとてもチャーミングに響いてきます。そして何よりもとびきりポップなメロディーとコーラス・ワークが魅力的。3曲目の「スノウ・イン・ザ・サン」を聴いていると、ブライアン・ウィルソンが声をつぶさないまま88年の1stソロを制作していたらこんな感じになったんだろうなあ・・・とすら思えてきました。ヒップホップ的なビートが控えめになったおかげで、グリーンのビートルズビーチ・ボーイズに連なるポップな側面がくっきりと浮かび上がってきたといえるでしょう。インパクトには欠けるかもしれませんが、地味だけど飽きのこないこの作品、個人的には大歓迎です。

僕は子供の頃から退屈や不安を抱えてた。でも3つだけ、僕がそれを忘れられるものがある。一つめは音楽だ。音楽を作るのに没頭している時は、退屈さも不安も感じずにすむ。(中略)二つめは哲学だ。哲学は僕全部を包み込んでくれる。そして三つめは黒ビールと白パンさ。
(「レコード・コレクターズ」誌10月号のインタビューより)