ランディ・ニューマン『デビュー・アルバム』

デビュー・アルバム

デビュー・アルバム

ボブ・ディランの深く美しい新作『モダン・タイムズ』がチャートの1位を獲得したそうです。前作『ラヴ・アンド・ゼフト』が発売されたのは奇しくも5年前の9月11日。この日を境に世界は大きく変わりました。The Time They Are A-Changin'―そして今、ディランはどんなサウンドでどんな言葉を投げかけてくるのか、かたずを飲んで新作を待っていた人が多かったことがチャート・アクションによって証明されたといえるでしょう。
ディランの新作が届けられた今、私が最もどんな言葉を投げかけてくるのか知りたいのはランディ・ニューマンです。久々にこのデビュー・アルバムを聴き直して、その思いを新たにしました。レニー・ワロンカーとヴァン・ダイク・パークスによるプロデュースの下、全てのオーケストラ・アレンジをランディ自身が担当したこの音楽には、単純さと複雑さ、優しさと皮肉、希望と絶望が一体となって縒り合わさっています。平々凡々な人生の夢を描いた「ラヴ・ストーリー」や「案山子は最新流行の服を纏い/凍てついた微笑みで/まとわりつく愛を振り払う/人類の優しさが溢れ出し/今日は雨が降りそうだ」と歌われる「悲しい雨が」や「デブのデイヴィ」がその典型といえるでしょう。その他の曲も同様です。オーケストラがこんなに苦い響きを奏でるアルバムを他に知りません。ここから出発して、ランディ・ニューマンは一貫してアメリカを見つめ続けてきました。そして今、彼は何を思っているでしょう。早く新作が聴きたい!