ハンク・モブレー「ディッピン」

ディッピン

ディッピン

ジャズを聴くならまずマイルス・デイヴィスから始めろ、と言われることがありますよね。確かに彼の歴史を追っていけばジャズのスタイルの変遷が良くわかるし、彼のバンドにいたメンバーを追うことで幅が広がるので、特に異を唱えるつもりはありません。しかし何事にも例外有り。ハンク・モブレーをマイルス経由で知ってしまうと損をします。マイルス・バンドに在籍していた頃のアルバム「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」などを聴くと、「なんでマイルスはこんなもっさりしたテナーを採用したんだろう?」・・・なんて思ってしまうんですよね。


ハンク・モブレーの個性はマイルスのように後ろでニラミを利かせる人の下では上手く発揮できなかったように思えます。ブルーノートに残した彼の一連のアルバムを聴くと、じんわりしたぬくもりのある彼の音色やフレージングがはっきりと分かる。中でも今回取り上げたこのアルバムは魅力的な共演者と弾むような躍動感のある曲に恵まれた、彼の代表作のひとつです。


なんといっても「リカードボサ・ノヴァ」が飛びぬけて有名なのですが、この曲にせよ冒頭の「ザ・ディップ」にしてもヒップなビートと、どこか歌謡曲的な感触のあるメロディーの取り合わせがいいんですよね。リー・モーガンの華のあるトランペットとハンク・モブレーの柔らかなサックスは相性が良くて、曲の持ち味をふくらませるのに効果をあげています。その他にもメロディやアレンジに一工夫凝らした曲がならびます。最後の曲「ボーリン」なんて3拍子ですからね。


このアルバムともう一枚、「ソウル・ステーション」を聴けば、愛すべきハンク・モブレーの魅力がはっきりと伝わってくると思いますよ。