坂本真綾「Lucy」

Lucy(ルーシー)

Lucy(ルーシー)

桜の咲く季節になると聴きたくなる曲、というのがいくつかあります。先日取り上げたピチカート・ファイヴ「皆笑った」もそのひとつなのですが、この坂本真綾のアルバムに収録されている「紅茶」も忘れられない曲です。

地下鉄の入口にある桜が今年も咲くから
私たちまたひとつ年をとるね
春は近付いた


永遠の印に
流星が来る夜を待って願いをかけたあの日のふたり


ずっと変わらないよと抱きしめては
何もかも手に入れたと思っていたよ
この手に残るものはたったひとつ
君は私の最初の恋人だった

初恋の終わりを簡潔に、そして切なく描いた歌詞、しっとりとした歌唱、優美なメロディとその裏に潜む複雑なリズム・アレンジ・・・どれをとっても非のうちどころがない、名曲と呼ぶにふさわしい逸品です。


もっともこのアルバムには他にも優れた楽曲がずらりと並んでいるので「紅茶」だけ聴いておしまい、という訳にはいきません。繊細さとトータリティでは前作『DIVE』(大傑作!)に一歩譲るものの、力強さと曲調のカラフルさではこちらが上回っているといえるでしょう。疾走感あふれる「マメシバ」、ファンシーな「木登りと赤いスカート」、解放的な「ストロボの空」、スケールの大きい「私は丘の上から花瓶を投げる」・・・もうどの曲も聴かせどころ満載です。もちろん全ての作・編曲をてがけた菅野よう子の貢献が多大なものであるのは論を待ちません。


今作に限らず、1997年の『グレープフルーツ』から2003年『少年アリス』に至る真綾&菅野コンビが残した一連の作品はどれも素晴らしいものです。この7年の間、坂本真綾は間違いなく邦楽最高のアーティストのひとりでした。