講演「異文化の音、自然の音―音楽をする―」講師:細野晴臣@立教大学

昨日は立教大学で行われた、立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科による連続公開講演会の第4回「異文化の音、自然の音―音楽を<異化>する―」に行ってきました。理由はもちろん、講師が細野晴臣だったから。会場は満員の盛況で、主宰した野田教授も驚いていました。



以下、記憶に頼っているので間違いもあると思いますが講演の模様を思い出すままに書いていきます。



15:30に開場。講演が始まるまでの30分の間に流れていた曲は以下の通りです。

  1. YMO「ファイヤークラッカー」
  2. マーティン・デニー「ファイヤークラッカー」
  3. 雪村いずみ「銀座カンカン娘」(「『スーパー・ジェネレーション』収録版)
  4. はっぴいえんど「風をあつめて」
  5. はっぴいえんど「はいからはくち」
  6. はっぴいえんど「さよならアメリカ、さよならニッポン」(たぶん再結成時のライヴ・ヴァージョン)


まずは野田研一教授による講義からスタート。はっぴいえんどティン・パン・アレー〜YMOに至る細野の歩みを「外なる異文化 内なる異文化」の視点で語りました。
「さよならアメリカ、さよならニッポン」を取り上げ、普通なら「さよならアメリカ」でナショナリズムへ回帰しそうなものだが、そうではなく「さよならニッポン」とはっぴいえんどは歌った。それは<日本>もまた彼等にとって異文化だったからだと述べ、YMOを「アメリカのまなざしに映し取られた<アジア>を自ら演じてしまう」視点にたったものととらえていました。そして、その出発点として「アメリカ内の非アメリカ的なもの―マーティン・デニーのエキゾチズム」と「日本内の非日本的なもの―服部良一モダニズム」の発見があるのではないか、とまとめていました。


さて、いよいよ細野晴臣講師の登場。野田教授の話を受けて「生まれ落ちた時点で「さよならアメリカ、さよならニッポン」でした」と話を始め、幼少時にアメリカのMPからチョコレートを貰ったことや、家にあったSPを夢中で聴いていたことなど、異文化と出会った体験を語りました。
続いてバッファロー・スプリングフィールドを聴いて解析できない不思議な魅力を感じたことから、はっぴいえんどの活動が始まったこと(大滝詠一がレコ屋で細野が来るまでバッファローのLPをキープして待っていた、という逸話が笑いを誘いました)や、ロックのノリはスイングとタテノリの8ビートが出会って豊かになったことなどを話してソロ・トークは終了。


引き続きコメンテーター三上敏視と野田教授を交えての鼎談形式で話が進みました。ここでは音楽を聴きながらの進行。
まずは細野所有のSP盤と蓄音機でホーギー・カーマイケル「ホンコン・ブルース」がかかりました。いい音。「電気がなくてもなっているのがいいね〜」と細野にっこり。
異文化の出会ったハイブリッドとしての音楽の話に続いて、Powerbookでマルティニクの音楽がかけられます。そして、なんと現在製作中のアトム・ハートことセニョール・ココナッツのYMOラテン・カヴァーの音源を披露。会場大爆笑でした。これ発売されたら絶対買います。


このあたりからくだけた、リラックスした雰囲気で話は進んでいきました。ヴァン・ダイク・パークスの名作「ディスカヴァー・アメリカ」にも収録されている「ビング・クロスビー」のオリジナルもかかりましたね。これヴァン・ダイクのヴァージョンとそれほど変わらないのに驚きました。「この曲でビング・クロスビーの実際の曲を引用しているけど、その引用のしかたが我々から見るとすごい」と細野談。隣で三上も大きくうなずいていました。


その外に印象に残った発言をランダムに記していきます。


・「音楽のマジックは分析することもできるけど、解体して解き明かしたとたんに面白くなくなる」
・「数年前は北欧のエレクトロニカが面白かったけど、今はアルゼンチンが面白い」
・「昔はメディアそのものが音楽好きだったけど、今は違う。面白い音楽は自分で探さなくてはみつからない」
・「レコードは録音するとき、周波数をカットして情報を狭めている。そこにレコード音楽のマジックが出てくる」



講演の終わり近く、三上から奉納演奏の話題が振られました。ここで即興の楽しさについて細野は語った後「どう面白くさせるのではなくて、いかに自分が音楽をリラックスして楽しくできるのかが僕の2007年(なぜ2007年?)のテーマ。それを観ている人が楽しむ、というのがいいんですね」「音を楽しむということは技術やメロディづくりなどの前に来るものなんです」と述べました。
ここで野田教授が、東京シャイネスのコンサートでの公開リハーサルが面白かったと発言。


すると細野が「ここでやってもいいですよ」とやおらアコースティック・ギターを取り出しました。三上がアコーディオンを用意するのを待っている間、「第3の男」のテーマをつまびきながら待っていた細野。準備が整うと
「えー、4月2日にジョン・セバスチャンとジェフ・マルダーという僕の先生のような人が来て、フリッツ・リッチモンドの追悼ライヴを行うんですが、それに呼ばれてベースを弾くことになってるんです。これは呼ばれたら行かないわけにはいかないですね」*1と述べて本日最大の目玉、即興公開リハーサルが始まりました。
演奏された曲はまず「ホンコン・ブルース」。途中、オブリガードを奏でる三上のアコーディオンを「ちょっとうるさいよ」と制したのが面白かったです。まだ時間があまっていたので続いて演奏されたのは「チャタヌガ・チュー・チュー」。歌詞はかなり飛んでいましたが、先の細野の言葉を裏付けるリラックスした演奏で、もちろん会場は大喝采


以上、細野のサーヴィス精神あふれる楽しい講演会でした。東京シャイネス公演を見逃した私にとって、久々に細野の生演奏に接することができたのが何よりうれしかったです。

*1:これ、きよさん(id:addsomemusic)が行かれる公演ですよね?うらやましい!