新川忠「Christy」

クリスティ

前作「Sweet hereafter」は“ニルソン meets 細野晴臣”と形容したくなる名盤でした。しばらくの沈黙を経て発表されたこのアルバムでも彼の甘い声は健在です。しかし、このアルバムは前作にあったトロピカルな雰囲気は無くなり、代わりにメランコリックな雰囲気が支配しています。
http://tadashishinkawa.com/kaisetsu/にある本人の言葉を引用すると、

歌を作るとそのイメージの中に女性が出てくる、というのは男性のソングライターによくあることですが、かくいうぼくもその一人です。今回のアルバムでは、そのイメージの中の女性を一人のヒロインに見立てて、彼女にまつわる様々なエピソードを一つ一つ曲にしていく、というコンセプトで制作を進めていきました。そして最後に彼女に名前を与えてアルバムのタイトルにすることにしました。

とあります。アルバムの中で「彼女」はスケートリンクで時を忘れてはしゃいだり(「スケートリンクの午後」)、つまらないジョークに笑いあったり(「木曜日」)、秘密のくちづけを交わしたり(「夜更かしのリビング」)するのですが、アルバム冒頭の曲が「恋の終わり」ということから想像がつくとおり、これは全て思い出の中の出来事なのです。だから、どんなに優しいメロディーが歌われようと後味はどこかほろ苦い。このビター・スイートな味わいが本作の魅力です。そしてアルバム最後の曲は「彼女」の名前―クリスティ―をタイトルにしたもの。歌詞は無く、ピアノでひそやかに穏やかなメロディーが紡ぎだされ、映画のような余韻を残してアルバムは幕を閉じるのです。