ニルソン「夜のシュミルソン」

夜のシュミルソン

夜のシュミルソン

ゴードン・ジェンキンスによる華麗なオーケストラ・サウンドをバックにスタンダード・ナンバーを歌いまくるアルバム・・・と書くとなんだか最近のロッド・スチュワートについて書いているような気分になりますね(笑)。実際そうした企画の先鞭をなしたアルバム、と言うこともできるでしょう。けれども、このアルバムの精神を受け継いでいるのは清水靖晃の「北京の秋」だと私は思うのです。


「北京の秋」もオーケストラをバックに清水靖晃のサックスがスタンダード・ナンバーを吹きまくっているアルバムですが、過去にチャーリー・パーカークリフォード・ブラウンといった巨人達が残した「ウィズ・ストリングス」もののパロディとしても捉えることができる側面があります。ニルソンのこの作品にも同様の批評的な視線を感じられるのです。「ウィズアウト・ユー」の大ヒットでロック・スターとして絶頂期にあった時に、あえて懐古趣味とも受け止められかねないアルバムを出してきたというところに時代に対するシニカルな批評性があるように思えます。


しかし、実はそう単純な話でもないのでは。というのも見方によっては初期4枚の世界をヴァージョン・アップさせた試みとも考えられるからで、そうなるとこれは一種の原点回帰ということになるでしょう。・・・・と、あれこれ考えても詮無いことかもしれません。ここでのニルソンの歌はひたすらに素晴らしい。ブライアン・ウィルソンやカレン・カーペンターがそうであるように、ニルソンのヴォーカルには甘さや明るさの裏に、いいしれぬ孤独の深さを感じさせずにはいられない寂寥感があって、それがこのアルバムに微妙な陰影と綾を与え、聴く人の胸を打つのです。