リチャード・トンプソン「グリズリー・マン サウンドトラック」

グリズリー

ここのところ活動のペースが上がって来ているリチャード・トンプソン。昨年のアコースティック・アルバム「フロント・パーラー・バラッズ」に続く新作はヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画「グリズリー・マン」のサウンドトラックです。
ヴェルナー・ヘルツォークというと、「ノスフェラトゥ」「アギーレ・神の怒り」の音楽にジャーマン・プログレのポポル・ヴーを起用したことでロック・ファンには馴染み深いですが、リチャード・トンプソンとはおそらく初顔合わせではないでしょうか。結果として―まだ映画を見ていないので音楽だけの感想になるのですが―イマジネーション豊かな美しい音楽をトンプソンはそのギターで紡ぎだすことに成功しています。
シンプルなサウンド・スケープの中にトンプソンのギターが映えているのですが、トンプソン以外に注目すべき人物が2人。まずはプロデューサーのヘンリー・カイザー。主にアヴァンギャルド・シーンでの活躍が目立つ人ですが、かつてトンプソン、フレッド・フリス、ジョン・“ドランボ”・フレンチと共に「フレンチ・フリス・カイザー・トンプソン」名義で2枚のアルバムを残しており(乞うリマスター再発!1stでは「ハイサイおじさん」をカヴァーしています。個人的に好きなのは2ndですが)、トンプソンの音楽の良き理解者でもあります。
そして、もう一人はゲスト・プレイヤーとして参加したジム・オルーク。ヘンリー・カイザーのアイデアと思われますが、90年代以降、私の興味を示すポップ・ミュージックのシーンには必ずといっていいほどこの人は登場してきます。まさかリチャード・トンプソンとまで絡んでくるとは。ジム自身によるライナーノートには、

私にとってこのサウンドトラックは、自分の人生の中でも最良の3日間の美しいひとときであり・・・

と書かれており、これをきっかけに今後両者の交友が進んでいけば面白いのではないか、という期待を抱かせます。
ヘンリー・カイザー、ジム・オルーク、どちらもアヴァンギャルドからポップまで幅広い音楽性を持つ者ですが、ここではあくまで黒子に徹しています。先にも書いたようにサウンドはシンプル。だからこそトンプソンのギターの味わい、メロディアスなフレージングに潜む微妙なニュアンスが存分に楽しめるのです。私が普段リチャード・トンプソンのソロ・アルバムを聴くときはそのソングライターとしての面に注目して聴きがちになるのですが、久々にギタリスト・トンプソンの魅力を堪能しました。