太田裕美「海が泣いている」


松本隆筒美京平コンビ路線の最終作(次にこのコンビによる作品が復活するのは20年後のシングル「魂のピリオド」)となった78年作。
全編LA録音でギターにリー・リトナー、ドラムにエド・グリーン等を起用。ジミー・ハスケルがアレンジを手がけた曲(「振り向けばイエスタディ」「街の雪」)もあり、LAらしい乾いたサウンドを聴くことができます。「スカーレットの毛布」でのリー・リトナーのカッティングなど流石と思わせる演奏も随所に。
にもかかわらず、ジャケットにも象徴されているように、内省的なトーンがアルバム全体を支配しています。ロック調の「Nenne」や軽快なレゲエ「ナイーヴ」、オールドタイミーな「女優(ヒロイン)」といった曲もあるのですが、それらはあくまでアクセント。最後を締めるディスコ・タッチでソウルフルなコーラスが絡む「アンリミテッド」はちょっと浮いている感じすらします。
本来ならばカラッとしたLAサウンドに、

しん・かん・しん・かん 雪が降る
(「街の雪」)

から松を抜けると
人知れぬ小川のつづれ織り 琥珀の糸
(「水鏡」)

のような和風の言葉をのせた曲の方が違和感ありそうなものですが、これらは逆に風通しのよいサウンドによって、べたっとした情緒に流れずに済んでいるように感じます。これは他の曲にもおおむね当てはまることで、その意味で海外録音の成果はあったといえるのではないでしょうか。
タイトル曲「海が泣いている」は松本隆によると、かなり私小説的要素の濃い歌詞ということですが、冬の海辺に佇む切ないカップルを描いた曲として、ムーンライダーズ「A Frozen Girl, A Boy In Love」と双璧を為す名曲。筒美京平の繊細なメロディが胸にしみます。