シャロン・シャノン「チューンズ」

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シャロン・シャノンといえば、アイルランドを代表するアコーディオン奏者ですが、デニス・ボーウェルとタッグを組んでダブに挑戦したり、豪華なゲストを招いたヴォーカル・アルバムを制作したりと、ジャンルの枠を超えた幅広い活躍をしてきた人です。
そんな彼女の新作が「チューンズ」。しかし、これはシャロン・シャノン単独名義のアルバムではありません。ジャケットにはフィドル奏者フランキー・ゲイヴィン、フルート奏者マイケル・マックゴードリック、ギタリスト、ジム・マレイの名前がシャロンと同じ大きさで記されているのです。
この4人が対等の比重となっていることは実際に音を聴けばすぐにわかります。
シャロンアコーディオン、フランキーのフィドル、フルートのマイケルの3人がユニゾンで主旋律を辿り、ギターのジムが簡にして要を得た、的確なサポートをつけるという構成の曲がずらりと続くのです。フロントの3人の音色はほぼ同じ音量でミキシングされていて、明らかに音色の質の異なるフルートはともかく、アコーディオンフィドルは聞き分けるのが難しくなることもしばしば。曲によってはベースやパーカッションが加わることもありますが、決してサポートの域を超えることのない控えめな演奏に終始しています。それでは退屈なのか、というと決してそうではないところが本作の面白いところ。モダン・ジャズのように、ソロイストの技比べやエゴのぶつかりあいから生まれるスリルを期待したりすると肩透かしになってしまいかねませんが、ここで聴かれる音楽は信頼しあった仲間同士が互いに合奏する喜びにあふれているのです。スタイルこそ伝統音楽に回帰しているけれど後ろ向きではない、「今」を生きる音楽がここで鳴っていることにはこのアルバムを耳にした多くの方が同意してくれるのでは、と思います。