キング・クリムゾン「アイランド」

アイランド (紙ジャケット仕様)

アイランド (紙ジャケット仕様)

1stは別格とすると、キング・クリムゾンの歴史の中でも特異な位置にあるアルバム。現在のクリムゾンは「太陽と戦慄」と「ディシプリン」で得た方法を止揚させた音楽をやろうとしていると思うのですが、そのためにこの時期の作品が浮いた形になっているように見えます。もちろんキース・ティペットとのつながりなど、重要な要素もあるのですがクリムゾンというバンドの流れでは過渡期の産物である作品と言っても良いでしょう。
しかしビートルズの「ラバー・ソウル」がそうであるように、過渡期の産物であるからこそ持ちえた、この時期だけにある魅力、可能性がこの「アイランド」には感じられます。
コンセプト、楽曲制作などの「頭脳労働」はピート・シンフィールドとロバート・フリップが受け持ち、イアン・ウォーレス、ボズ・バレル、メル・コリンズらを演奏面を担う「肉体労働者」として役割を分担させる方式でこのアルバムは造り上げられました。もっともこの方式はすぐに「肉体労働者」組の反乱にあって瓦解してしまうのですが(その有様はライヴ盤「アースバウンド」で確認できます)。そのためにここではフリップの意外なメロディ・メイカーの才能が発揮されています。「フォーメンテラ・レディ」の東洋的なメロディー、フォーク調の「レターズ」、ビートルズ的な「レディーズ・オブ・ザ・ロード」そしてキング・クリムゾンの作品中最も美しいメロディーを持った「アイランド」、果ては弦楽四重奏の「プレリュード:かもめの歌」に驚かされます。これ以降のフリップはメロディーづくりはジョン・ウェットンエイドリアン・ブリューに大半を委ねて、自身は楽曲全体の構成やギター・リフづくりを担っているように思われるので(これはあくまで私の想像ですが・・・)、なおさら意外の念を持ちます。その一方で「船乗りの話」に代表される激しいインプロヴィゼーションもあることが、このアルバムを多様なものにしているといえるでしょう。ギタリストとしてのロバート・フリップの影はやや薄いものの、コンポーザーとしてのロバート・フリップの姿が浮き彫りになったこの作品、もう少しこの路線を発展させたアルバムを聴いてみたかったと思わせるのに充分な魅惑があると思うのです。