細野晴臣「フィルハーモニー」

フィルハーモニー

フィルハーモニー

暗くて変な曲しかつくらない人、と思っていた細野晴臣に、この人、実は面白いかも?と興味のベクトルを向かわせた、私にとっては思い出深い作品。なにしろYMOで初めてその存在を知ったわけです。ピコピコ・サウンドに夢中になっていた中学生時代の私は、はっぴいえんどなんてかび臭くて聴いていられなかったし、トロピカル3部作は存在すら知らなかったので興味の持ちようがなかったのですね。平行してクラシックも熱心に聴いていた当時の私にとって、YMOといえばまず教授、そしてユキヒロ、最後にホチョノさんという序列だったのでした。


そんな中「一所懸命つくりました」のコピーがつけられたこのアルバムが登場してきたのです。レンタル屋で「とりあえずYMOの人のソロだから」というだけの理由で借りてきたのですが、針を落としてたちまちノックアウト・・・というわけにはいきませんでした。「やっぱり変な曲ばかりだなあ」というのが第一印象だったと思います。だけど、比較的耳に馴染みやすい「フニクリ・フニクラ」「スポーツ・マン」といった曲をとっかかりとして何度か繰り返して聴いているうちに、最初は「変」と思っていた曲にも少しづつ惹きこまれていきました。独特のユーモアと、茶目っ気というかひとなつっこい感触がどの曲にも共通してあることに気がついたのですね。ここにきてようやく「この人の作品をもっと聴いてみたい」という気持ちが芽生え、今度は「泰安洋行」をレンタル。以後すっかり細野ワールドに夢中になっていったというわけです。


リマスターされたCDで改めて聴く「フィルハーモニー」は、ぐっと鮮明になった音が新鮮な喜びを与えてくれます。「ホタル」のガムランのような音のキンキンという高音とカタカタする響きの感触が心地よいし、「お誕生会」「エアコン」では細かい音も鮮明に聴こえてくるのがうれしい。ミニマル・ミュージックの方法論を導入しても教授と異なり、スティーヴ・ライヒフィリップ・グラスの影をあまり感じさせないのが面白く、アンビエント的なサウンドを試みても、個々の音の個性が強いのでそうはならない。結局何をやってもポップとしか形容できない音楽になるところが細野晴臣の最大の魅力だと思います。初期のサンプラーであるイミュレイターを使いまくって出来上がったサウンドは太くて温かい。この音色の感触と、ほとんどをプライベート・スタジオであるLDKスタジオで録音された、ということを考えると、実はこのアルバムは「ホソノ・ハウス」パート2だったんだな、と今回のリマスターを聴いてしみじみ思ったのでありました。