ブランドン・ロス「コスチューム」

コスチューム

コスチューム

いわゆる「大人の音楽」としても使える洗練された雰囲気をもつアルバム。しかし注意深く耳を澄ますとかなり個性的な音楽が展開されているのに気づくはず。ほとんどコードを奏でることのないブランドン・ロスのギター、ビートの呪縛から遠く離れたリズム感覚がゆらゆらと漂うような音空間をなして聴く者を包み込む。また時には、バンジョーの響きや尺八を思わせる笛の音が響いてきて不思議な世界へ導いていきます。決して派手ではないけれど聴く度に異なる風景を見せてくれる音楽なのです。


75年のアーチー・シェップのアルバムへの参加がレコーディング・キャリアの初めというから、相当な経歴の持ち主であるブランドン・ロス。しかし彼が名を馳せたのは90年代のカサンドラ・ウィルソンの一連の傑作への貢献や、キップ・ハンラハンの作品への参加を通してでした。そしてようやく2004年になって彼個人名義のアルバムである、この「コスチューム」が登場したわけです。


「このアルバムでは、インプロヴィゼーションにおける特殊な音楽的書法を扱っている。即興的にアプローチする形式で、コードやスケールに基づかない、つまり音程やハーモニーを使って即興するという、とても自然な表現で、民俗音楽に由来するものだ。スキップ・スペンスがやってるようなこと、つまり“身振り(Gesture)”を使ったものなんだ。モダンな楽器を使っているんだけど、古いサウンド、空間を感じさせる響き…つまり、深さ、サイレンス、演奏についてのコンセプト、音楽と響きや音色の関係といったことを念頭に作曲した」*1
と自ら語っているとおり、彼独自の方法論が先に述べた音空間を形成する大きな要因になっているのですが、そのギター・プレイに勝るとも劣らないのが3曲で聴かれる彼のヴォーカル。宗教的な内容の歌詞を穏やかに滋味深く歌っていて素晴らしい出来栄えです。いつか全曲歌ったアルバムを出して欲しいと願わずにはいられません。


「ギタリストとしての自分の魅力? それはシンガーであるということだね。いつも歌っている。速弾きすることなんて考えていない。どんな音色なのか、サウンドを注意深く聴いている。大事なのは、内なる声とのつながりが聴こえているということだ」*2

*1:ライナーノートより

*2: