デイヴィッド・バーン「グロウン・バックワース」

Grown Backwards

Grown Backwards

典雅な音楽です。そして、「典雅」なんていう言葉が似合う音楽をデイヴィッド・バーンが生み出したことに驚いています。なにもビゼーヴェルディをカバーしているからこの言葉を用いたのではありません。バーンがトーキング・ヘッズ時代から試行錯誤を重ねてきた試みが、その特殊性を損なうことなく円熟した形で結実していると感じられたからです。ルーファス・ウェインライトカーラ・ブレイなどの多彩なゲストを巧みに配置。多彩かつまろやかなリズムと、華やかなストリングスを中心に、オペラからヒップ・ホップ、フラメンコまでなんでもあり。それでいて実験的とか、ごった煮といった印象からは程遠い落ち着いた雰囲気がアルバムを支配しているのです。なによりもバーンのヴォーカルがこれまでになく大らかな魅力を湛えていて、かつての神経症的な感触が消え去っているのが大きな変化といえるでしょうか。本当に素晴らしい。これを聴いてかつての尖っていたバーンを懐かしむ方もいるかもしれません。しかし、私としては音楽家として一回り大きくなり、懐の深い調べを紡ぎだすようになったこれからのバーンの行く末が楽しみになってきました。久々にバーンのアルバムを何度も聴き返すことになりそうです。