ムーンライダーズ「Don't Trust Over Thirty」(ASIN:B000083OAQ)

ムーンライダーズ破竹の快進撃の80年代をしめくくる大傑作。セールスはともかくとして(笑)、80年代にこれほど傑作を連発してきたのは彼ら以外にはプリンスしかいないといっていいでしょう。個人的にはテクノ・ポップやネオアコなどが一段落して、ロックも退屈になってきたと思っていたところに痛烈な張り手をかましてくれた一枚。これがなかったらロックを聴くのはとうに止めてしまっていたかもしれないとさえ思っています。そのかわりに、かなりひねくれたロック・ファンになってしまってますが・・・。


前作「アニマル・インデックス」で採用した、メンバー各自が自分の曲を責任もってしあげるという手法を発展させて、メンバーひとり1曲+メンバー全員で仕上げた曲3曲という内容。しかも事前に鈴木慶一がメンバーの得意技を「禁じ手」にするという新趣向も加わってつくりあげられたことは、ファンの方なら周知の事実。下手打つとどうしようもなくバラバラになってもおかしくないのに、それぞれの曲が不思議な化学作用をおこして、圧倒的な統一感と緊迫感を持ったアルバムとあいなりました。「アニマル・インデックス」と比較してもエネルギー感や奥行きがぐんとスケール・アップ。これはバンド・マジックとしかいいようのないもので、後年の「Six Musicians On Their Way To The Last Exit」が結局ただのデモ・テープの寄せ集めにしかなってないのを思うと、いかにこの時期のムーンライダーズがバンドとして充実していたかをひしと感じます。


「禁じ手」の効果が最も発揮された、かしぶちらしからぬ脱臼ビートのインスト「CLNIKA」に始まり、馬鹿ソングあり鬱曲あり。ナンセンス・ジョークに黒いユーモア、アイロニーと切なさがそこかしこでスパーク。長い線路に腰を降ろして砂を食べているかと思えば、永遠を愛して海をふたりで見つめていたりもする。うずまく言葉に過剰なほどのアイデアをつめこんだサウンドがせめぎあい、音と言葉が銀盤からこぼれ落ちそう。この得体のしれないパワーは彼らにしか出せないものだと思います。「80年代の」とか「日本の」といった形容はいらない。シンプルに、「ロック史に刻まれるべき名盤」とよびたいですね。