佐野元春 and The Hobo King Band「THE SUN」(ASIN:B0002ADG4A)

THE SUN

なにか特別新しいことをやっているわけではありません。どこを取っても即座に佐野元春とわかるメロディだけで出来ている。けれどもそれがマンネリにならず、新鮮に響いてくるのは、高いモチベーションでつくられているからでしょうか。前作「Stones and Eggs」が私にはまるでピンとこないものだっただけに、この復活は本当にうれしいです。シングルとなった冒頭の「月夜を往け」は初期を思わせる音づくり。しかし姿勢はしっかり前を見つめています。イントロでかき鳴らされるギターで心奪われる、どこか甘酸っぱい雰囲気が漂う軽快なポップ・チューン。あっという間に終わってしまうのが惜しくて何度もリピートしてしまいました。これも既にシングルで発表済みの「君の魂、大事な魂」も佳曲ですが、まさか21世紀になって3連のロッカ・バラードに心ときめくとは思わなかったですよ。
その他の収録曲も粒ぞろいで、全体にテンポよく、小気味良く流れていきます。特に印象に残っているのは「希望」や「観覧車の夜」。ラストのタイトル・ナンバーに向けて盛り上がっていく後半も、もちろん良いのですが、個人的には今のところ前半から中盤にかけての、穏やかな中に懐の深さを感じさせる楽曲群に惹かれています。Hobo King Bandは練られたアンサンブルを聴かせてくれて、KYONの活躍が印象的。また、saxの山本拓夫は演奏にエッジを与えるのに貢献大です。
歌詞は以前にも増してストレートな言葉が目立つのですが、気恥ずかしさや違和感を感じさせないのが元春の面目躍如といったところ。聴いているとこちらの心もじんわりと熱くなっていくのを感じます。ポップな中にロックの心意気が躍動している傑作といえるでしょう。昨年のカーネーションのアルバム「Living / Loving」にも通じるものを感じました。



佐野元春自身によるアルバム解説

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