タイグアラ「イミーラ・タイーラ・イピ・タイグアラ」(ASIN:B00006ITYJ)

タイグアラ

これはものすごい。ヴァン・ダイク・パークスがブラジル人だったら「ソング・サイクル」はこんな風になっていたのではないかと思わせる、めくるめく音世界が広がっています。壮大なオーケストラとサウンド・エフェクトの多用。様々な音楽的要素がコラージュされる一方で、映画音楽のような悠然たる展開もみせる。混沌の中でもルーツ探求の歩みは外さない。ヴォーカルが頼りないところまでそっくりです。
タイグアラは1945年に生まれ、1996年没。60年代から音楽活動を開始していますが、しだいに政府の検閲との闘いが激しくなり、74年から75年にかけて音楽の勉強という名目でロンドンに滞在しています。そして帰国直後に発表した作品が本作「イミーラ・タイーラ・イピ・タイグアラ」となります。かつてやはりロンドンに亡命したカエターノ・ヴェローゾが帰国直後に彼のキャリア中最もアヴァンギャルドなアルバム「アラサー・アズール」を発表したように、タイグアラもこの過激で美しいアルバムをたたきつけたのでありました。
この作品でタイグアラを強力にサポートしたのは2人。プロデュースを担当した、ミルトン・ナシメントとの活動で知られるヴァギネル・チソ。そしてアレンジを担当した、ブタだろうがなんだろうがなんでも楽器にしてしまう怪人、エルメート・パスコアールです。奔放なアイデアをしっかりとうけとめ、なおかつ更にひねりを加えることすらできるスタッフを味方につけたのですから、こわいものなしといえるでしょう。とにかく先の展開が全く読めません。じゃあトリッキーなだけかといえば、ところどころで洒脱なアレンジが顔を出すのがニクイところ。何度聴いてもそのつど新しい発見がある傑作。