トータス「イッツ・オール・アラウンド・ユー」(ASIN:B0001EMW06)

トータス

ポスト・ロック」という言葉の意味するところが正直、よく掴みかねるのですが、この人たちを初めとする、シカゴ音響派の出現によって「変わったな」と思ったのはポップ・ミュージックのバンド、ユニットにおけるアンサンブルのありかたでした*1。今ではチェロやテルミンなどがメンバーに加わっているバンドを見ても、もう当たり前に思えてきましたからね。タウン・アンド・カントリーのところで述べたように、これらはロックというより新しいタイプの現代音楽。ミニマル・ミュージックやジャズの要素も含んだ、アンサンブルの新しい形態じゃないかと感じることが多くなってきたわけです。なので、前作「スタンダーズ」は個人的に苦手だったんですね。エモーショナルなものを打ち出したいんだろうな、と思ってはみても、ああ、いわゆるロックの方向にいっちゃうのか・・・とちょっと耳にしただけで遠ざかってしまいました。
3年ぶりとなる本作は、そんな私を優しく迎えてくれる、メロディアスな音楽が一貫して流れております。ドラム、パーカッションの乾いた音色、柔らかく深みのあるベース・ライン、ゆったりしたギターなど、どれも心地よい。2曲目で導入されたヴォーカルも違和感ないですね。もっとメロディがベタに甘かったら、ラウンジになりかねないところを寸前で踏みとどまる品のよさ。ロックとジャズのあわいをいくかのようなアンサンブルが、なんだかカンタベリー・ミュージックが21世紀のシカゴに転生してきたんじゃないかと思わせます。ハットフィールド&ザ・ノースやナショナル・ヘルス辺りが頭に浮かんでくるんですが、これは私だけかなあ?

*1:もちろんハード・ディスク・レコーディングの普及という面もありますね