鈴木慶一「Mother」(ASIN:B000197KZI)

Mother

ちょっと旧聞になりますが「座頭市」の音楽で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した、われらが鈴木慶一。私の感想はyouさんが2月21日の日記で書かれていることと変わりません。これで少しでもムーンライダーズの活動がしやすくなるのであれば、それに越したことは無し。
さて、鈴木慶一のソロワークスで最も優れていると思われるのが先日リマスター盤が出た、糸井重里が製作したゲーム、「Mother」の音楽です。ゲーム自体も面白かったですよ。何気ない端役のセリフにも趣向が凝らしてあって楽しかったし、主人公達のキャラも立っていました。音楽が重要なキーになっているのもうれしいポイントでしたね。当時のファミコンの限られた音源の中でいかに最大の効果を挙げるかに苦労したかは、慶一自身も語っているのですが、テクノ・ポップを通過した経験がとても生きたのではないでしょうか。チープな音でありながら、とてもキュートなサウンドがゲーム全体に鳴り響いていたのです。砂漠でテックス・メックスが流れてきたところなど、今でもありありと思い出しますよ。
そして、満を持してリリースされた、この「Mother」サウンドトラック盤はなんとポップ・アルバムとなっておりました。ロンドン・レコーディングを敢行して、デヴィッド・モーションやデヴィッド・ベッドフォードが参加し、教科書にも掲載されたという、「エイト・メロディーズ」ではマイケル・ナイマンをアレンジに起用するという凝りぶりです。ヴォーカルは現地で採用した少女が瑞々しい声を聴かせてくれますが、個人的にうれしかったのは「フライング・マン」でのルイ・フィリップでしたね。サウンドは当然ブリティッシュ・ポップ色が強いわけですが、そこにうっすらとビーチ・ボーイズのテイストもあるのがミソです。ともすれば凝った面ばかりが表に出がちなところを、上手く表向きは平明なポップ・サウンドの中に溶かし込んで、幅広いリスナーに訴える音楽になっているところがこのアルバムの素晴らしいところ。サントラとはいえ、岡田徹が「これは慶一のソロと言っても良いと思う」と評したのも納得の充実した出来栄えです。やっぱり、ほとんど慶一が自分で仕切っているのが大きいですよ。「SUZUKI白書」も全部自分で仕切っていれば掛値なしの傑作になったのに。という訳で「火の玉ボーイ」をライダーズの作品として考えるならば、今でも私にとってこのアルバムこそが慶一ソロの最高傑作。リマスタリングによって、ひとつひとつの音がよりつややかになりました。ゲームを体験したことがない方も、ぜひこのチャーミングなポップ・アルバムを楽しんでください。