ヴァン・モリソン「テュペロ・ハニー」(ASIN:B00005FMML)

昨日はガース・ハドソンのことを「頑固親父的」なんて書きましたが、こと「頑固親父的」雰囲気においてヴァン・モリソンの右に出るものがいるとは思いません。言葉の真の意味でソウルフルな歌を歌う大歌手。「孤高の」という形容が良く似合う男。なにしろこの人のアルバムのジャケットはコワイものが多い。「マイルスを聴け!」などの著作で知られる中山康樹がよく使うネタにアート・ブレーキー「モーニン」のジャケがこわい、というのがありますが、「モーニン」ぐらいでこわがっているようじゃヴァン・モリソンは聴けません。アルバムの前に立っただけで失神します、というのはさすがに大げさですが。

とはいえ何事にも例外があるのが世の常。この「テュペロ・ハニー」のジャケットはピースフルです。木漏れ日を浴びて、森の中を白馬を連れて歩くヴァン。馬上には愛する妻、ジャネット・プラネットを乗せてすっかり白馬の騎士の風情です。内ジャケの写真なんて微笑んでますよ。私はヴァン・モリソンが笑っている写真はこれ以外に見たことありません。もっとも彼のアルバムは10枚位しか持ってないので、他のアルバムではひょっとして大口を開けた満面の笑みの写真があるかもしれませんけれど。

ジャケットの雰囲気通りに、ここでの音楽も軽やかさを感じさせる幸福感に満ちたものになっています。軽快な「ワイルド・ナイト」。パワフルなワルツ「キャノンボールのように」、堂々と「You are my sunshine」と熱唱する「ユア・マイ・ウーマン」、スイートな表題曲「テュペロ・ハニー」、ジャニス・ジョップリンをモデルに書かれた「ムーンシャイン・ウイスキー」等等、いい曲ぞろい。ちょっとカントリー・ロックのタッチもあるサウンドもアルバムの風通しをよくしてごきげん。流石の出来栄えです。現在もバリバリの現役だし、名作にも事欠かないお人ですのでやっぱり全部聴くつもりで追っかけていかなきゃだめですね。