小沢昭一「唱う小沢昭一的こころ」(ASIN:B00005GVXN)

小沢昭一

長寿ラジオ番組「小沢昭一の小沢昭一的こころ」20周年記念として、平成4年の暮れから平成5年の初頭にかけて放送されたものをCD2枚にまとめたものです。小沢昭一といえば、俳優としてはもちろん、ハーモニカの名手でもあり、民衆芸能の研究でも名高い人。その蓄積を生かして、ここではくだけた調子で関東大震災直後に流行したという歌から、都都逸、軍歌に至るまでたっぷり披露してくれます。全編アカペラなのですが、語りからすっと曲に入っていく呼吸の見事さや、ところどころに注釈を交えたり、長い曲は途中でどんどんテンポアップしたりと伸縮自在の歌いっぷりで聴く者を飽きさせません。決して美声ではないんだけど、実にいい歌なんだなあ。間のとり方が抜群です。
全部で3部に分かれていて、第1部は「シロクロ歌合戦」。歌合戦といっても一人でやってるのですが、紅白に対抗して、まだカラーTVなんて夢だった時代の曲を歌おうというもの。関東大震災から復興しつつあるときに歌われた「金々節」や「ストトン節」に始まり、「憧れのハワイ航路」や「緑の地平線」「裏町人生」「二人は若い」「うちの女房にゃヒゲがある」などの古賀政男ナンバーまで縦横無尽に歌いまくります。
第2部は「新春かくさず芸大会」。都都逸、俗曲から相撲甚句まで、かつて庶民の中に息づいていた曲をたっぷりと披露。合間合間の解説が実に楽しく、また、ためになるんです。
そして第3部は「正月気分は反戦気分」と題された軍歌特集。当時の戦意高揚歌も今聴くと、戦争のバカバカしさを訴えているように聞こえるとの口上に始まり、歌の合間合間にその歌詞の偽善性、空虚なイデオロギーなどをユーモラスに、しかし痛烈に批判しながら述べていく語りが見事です。今年の締めくくりにこれ以上相応しい音盤はないでしょう、というところで今年最後の更新を終わりたいと思います。来年も皆様にすばらしい音楽との出会いがあらんことを。ではでは。