薬師丸ひろ子「花図鑑」(ASIN:B00005GM32)

80年代松本隆の最高傑作。当時は主演映画以外での露出が少なくて神秘性があった彼女のキャラクターと、透明感ある「天使の棒うたい」*1の声を最大に利用して、自分のやりたかったことを思う存分くりひろげています。もちろん作詞は全て松本自身。作曲家陣は豪華絢爛。薬師丸が1曲(「紫の花火」)手がけているのはご愛嬌としても、まずはこれまでのつながりで筒美京平細野晴臣。アクセント的な役割を果たしているのが井上陽水。なんと中田喜直が2曲。そしてモーツァルトのピアノ協奏曲第23番2楽章に歌詞をつけちゃってます。アレンジは細野楽曲以外は武部聡志松任谷正隆松任谷は奥さんの作品のときよりはるかにいい仕事してます。細野曲は細野、越美晴と当時ノン・スタンダードに在籍していた関係からか小西康晴。これで悪い作品になったらどうかしてる、といいたいぐらい。あくまで主役は薬師丸の声であり、その魅力を生かしたメロディー、サウンドになっています。かくしてここにアイドルものの中でも屈指の格調の高さを誇るポップ・アルバムが誕生しました。
個人的な好みでいえば、細野曲のゆったりと流れていくようなメロディに一番魅力を感じます。特に「紅い花、青い花」のサビの部分は聴いていて本当に心地よい。中田喜直の曲は確かに唱歌を思わせるけど、全体の中に上手くとけこんでいます。彼の起用はプロデューサー・松本隆の英断でしょう。ここでの松本隆松田聖子の一連の楽曲やあの「ロンバケ」よりずっと気合が入っているように思われてなりません。そして、それが見事に実を結んでいるのです。


90年代になって、松本隆はもう一度似たコンセプトのアルバム「水の精」を制作します。そのときの主役は裕木奈江。しかし不幸なことにアルバムが発表されたときは裕木奈江に対するバッシングが最も高まっていたとき。そのため「水の精」はあまり注目されずに終わってしまったのでした・・・・。

*1:確かミュージック・マガジンのレビューで使われた形容。気に入ってます。