レスター・ボウイ「オール・ザ・マジック」(ASIN:B0000262UN)

all the magic


およそECMらしからぬジャケットと内容の2枚組大作アルバム。レスター・ボウイといえばアート・アンサンブル・オブ・シカゴでの活動が一番知られていますが、それ以外にも自身のグループ、ブラス・ファンタジーなどで幅広い活動を展開していた人。フェラ・クティとの共演歴まであるのですから、いわゆる一般的なジャズの枠からは軽くはみだしてしまうスケールの大きいラッパ吹きだったわけです。
本作はそんな彼の音楽的志向がよく表れています。全編レスターが一人で録音した2枚目もいいですが、なんといっても1枚目が聴き物。編成は通常のジャズ・コンボに近いのですが、フォンテラ・バスのヴォーカルをフィーチャーしたR&Bだったり、フリージャズだったり、ライ・クーダー「ジャズ」を思わせるサウンドが聴けたりとヴァラエティに富んだ曲ぞろいで、ブラック・ミュージック全体を追及していこうというレスター・ボウイの意思がうかがえます。とはいえ決して堅苦しくはありません。サッチモを尊敬しているというレスターのトランペットはどんなときでも歌心にあふれたフレーズを奏でていて、音楽の楽しさを伝えてくるのです。それがはっきりと分かる本作の白眉は3曲目。アルバート・アイラーの代表曲「ゴースト」をなんとカリプソでカヴァー。そのアイデアに驚かされますが、これが抜群に楽しい演奏で、もう最高。