大友良英「山下毅雄を斬る」(ASIN:B00005F2I8)

山下毅雄


山下毅雄は昭和30年代から40年代にかけて、アニメやドラマの音楽を数多くてがけてきた作曲家です。90年代になってのモンド、ラウンジブームの際に再評価されたのは記憶に新しいところ。一方、大友良英はまさに山下の全盛時代に少年時代を過した世代であり、思いいれも深いものがあるでしょう。そんな大友が山下の楽曲にトリビュートならぬ真っ向勝負を挑んだカヴァー・アルバムがこれ。伊集加代子チャーリー・コーセイといったオリジナルと同じヴォーカルをゲストに向かえ、楽曲の形を尊重しながらも隙あらばフリー・インプロヴィゼーションの地雷を埋め込んで行く演奏はスリリング。それにしても大友、今堀恒夫、益子樹を向こうにまわそうがそのアクが薄れないチャーリー・コーセイのヴォーカルはたいしたものです。そんなツワモノには確かに「斬る」ぐらいの覚悟がないと太刀打ちできません。その他のヴォーカル・ゲストも負けず劣らずの人選。まずはエンケン。SEが炸裂しまくるバック・トラックをものともせず「ジャイアント・ロボ」を熱唱、熱唱、また熱唱。「悪魔くんオープニングテーマ」での天鼓もはまり役ですが、エンケンと並んで存在感を示すのはガンバの大冒険のオープニングとエンディング・テーマをしゃがれ声で歌い上げるPhew。彼女がどちらかというと苦手な私でも、その力は認めざるをえないところです。バックの演奏陣も松原幸子菊地成孔芳垣安洋など大友作品ではおなじみの実力者ぞろい。「七人の刑事」を演奏したメンバーが後にそのまま「大友良英 New Jazz Quintet」(ONJQ)へと発展していくのですから、このアルバムは一過性の企画物ではなく、現在の大友の活動につながるターニング・ポイント。アヴァンギャルドもポップ足りえることを示した好作品です。