八木美知依&Paulownia Crush「ゆらる」(ASIN:B00005LJOE)

ゆらる


八木美知依は箏奏者ですが、プロフィールを見るとジョン・ケージやコンロン・ナンカロウに影響を受けると記されていて、邦楽の伝統にとらわれない活動を行っている人です。彼女が育てた若手箏奏者6人が結成したアンサンブルがPaulownia Crush。したがって、このアルバムも当然のことながら伝統邦楽ではありません。とはいえ現代音楽的なアプローチを全面展開しているわけでもなくて、ここに聴かれるのは、箏をアジア文化圏の中の弦楽器のひとつと捉えた上での音楽なのです。


このアプローチを形にするにあたって大いに貢献したのが全ての作曲とアレンジを手がけた佐藤允彦。同一楽器によるアンサンブルは均一な響きが得られる半面、単調にもなりやすい危険がありますが、そこをインドからミャンマーに及ぶ伝統音楽から素材を得たバラエティーに富んだ作曲と、調弦の変化等によってフォロー。微分音程の調弦ガムラン風のサウンドを出すことに成功した曲「打吟」がいい例といえるでしょう。
その他にも、変拍子によるうねりが心地よい「NAHM」、ルーマニアの2つの美しいメロディーを奏者が自由に行き来する「歌垣」が気に入りました。北インド民謡をモティーフにした「キェションの畑打歌」が意外にも最も日本ぽかったのも面白かったです。