クラスター「ゾヴィゾーゾー」(ASIN:B00005EU1D)

ゾヴィゾーゾー


元祖エレクトロニカ。ほのぼのテクノの大名盤です。イーノとの共演の2年前、1976年の作品ですがこの頃から彼等はアンビエントに近い音を創りだしていました。とはいえアンビエントとよぶにはまったりしすぎているように思えます。レデリウスがやや抒情的なサウンド、メロディらしきものを担当し、メビウスはヘンテコ電子音をひたすら鳴らすという組み合わせがうまい具合に作用して、なんともいい湯加減の心地よさ。反復フレーズが続いてもマニュエル・ゲッチングのように目くるめくような快楽へ昇り詰めることはなく、クラウス・シュルツェのように重々しく、ドラマティックに盛り上がるわけでもない、カンのように知性と本能が止揚されていくでもない、クラフトワークのように研ぎ澄まされた音色感覚を見せるわけでもない・・・とないないづくしの音楽なのですが、それが転じて他の誰にも似ていない、ちょっととぼけた味わいのクラスターの個性がここには確かに「ある」のです。季節外れですが「春の海ひねもすのたりのたりかな」なんて句を連想したりなんかも。そういえば彼等はこの後「大海原(グロッセス・ヴァッサー)」という題名のアルバムを図らずもつくっていたのでした。