RAM「HOME FAMILY LOVE」(ASIN:B0000A1269)

ワールド・スタンダードを再始動させたとき、それは鈴木惣一朗ひとりのユニットでした。出発点を再確認したかのようなアルバム「Ⅱ」を出した後、彼は「ディスカヴァー・アメリカ」シリーズの制作に入ります。彼の中に抜きがたいオマージュとしてある、アメリカン・ミュージックを探訪する旅。全く浮世離れしていたわけではないのは、彼の著書「モンド君日記」を一読すればわかりますが、現在の空気を吸いつつ、ひとりで夢を紡いでいきました。その旅の途中に出された「ひとり」(アスペクト社)というディスク・ガイドと同じ空気感がそこには漂っていたのです。その息詰まるほどの濃い空気感は、彼自身がメンバーとして加わった、ノアルイズ・マーロン・タイツなどの出会いを経て、少しづつ和らいでいき、やがてその「ひとり」の旅は終わりを告げます。ひとりからふたりへ。次に鈴木惣一朗が向かったのは純粋にサウンドのみのやりとりでコミュニケーションを図る試み「FUTARI」でした。そして、そこから芽生えた繋がりがRAMというバンドとなって今私達の前にあります。
RAMのメンバーは鈴木惣一朗の他には青柳拓次(Little Creatures,Kama Aina)、伊藤ゴロー(Moose Hill)、高田漣(Pedal Steel Guitar)、吉野友加(Irish Harp)、伊藤葉子(Drums)といった顔ぶれです。それぞれが特に気負うことなく、自然体に近い形で音楽を続けてきた人達。そんな彼等が奏でる音楽は、柔らかい弦の響きが印象的な21世紀のグッドタイム・ミュージック。口笛の音も軽やかなステップを踏みたくなる「RAMのテーマ」から始まり、タジ・マハールのカヴァーもまろやかに溶け込んでいます。青柳拓次のつぶやくようなヴォーカルも味があり、鈴木惣一朗の活動を追ってきたものにとっては、エヴリシング・プレイ時代の名曲「休日」のカヴァーはうれしい贈り物でした。決して声高に何かを訴えるといった類の音楽ではないのですが、「HOME FAMILY LOVE」というタイトルは決して夢想家の言葉ではなくて、今の時代を生きる音楽家達が優しい口調で声低く、しかし力強く語っているメッセージなのだ、ということが自然に伝わってくるのです。今年の新譜の中でも地味だけど、私にとっては忘れられないアルバムとなるでしょう。
細野晴臣や、アン・サリー畠山美由紀等の推薦コメントが下のURLで読めます。


http://www.faith-group.co.jp/RAM/disc_main.html