シャッグス「ザ・シャッグス」

シャッグス


“The Shaggs. Better than the Beatles even today”Frank Zappa


“The Shaggs are like castaways on their own musical island”Bonnie Raitt


“They bring my mind to a complete halt ”Carla Bley


ある意味最強のバンド。音楽にも天然ボケというものがあることを教えてくれる強烈な存在がシャッグスです。今回とりあげたのは69年の1st「フィロソフィー・オブ・ザ・ワールド」と75年の2nd「シャッグス・オウン・シングス」をボーナス・トラックを加えてCD1枚にまとめたものです。とにかく最初に聴いたときの衝撃はすごいものがありました。曲自体は結構ポップだったりするのですが、ずんどこした、ろくにビートを刻まないドラム、ぺラぺラとした音色でたどたどしくメロディーを追うギター、妙に無邪気なヴォーカル、それらが全部ずれてアンサンブルの体をなしていない。はっきり言っても言わなくても下手です。しかし伊達に上に挙げた大物が賛辞*1を述べているわけではありません。聴き続けていくうちに心境が、衝撃→爆笑→悪酔い→謎の快感へと変化していくのです。この快感はいったいなんなのでしょうか。


シャッグスはドロシー、ベッティ、ヘレンの三姉妹からなるバンド。兄がマネージャーで、父親がプロデュース。この父親が全ての始まりでした。当時流行していたジャクソン・ファイヴやパートリッジ・ファミリーのようなファミリー・バンドに憧れを抱いた彼がある日一年発起。楽器を3姉妹に与えてレッスンを開始します。しかし何を焦ったのでしょう。まだ全然マスターしていないうちにレコーディングをしてしまうのです。こうして出来上がったのが1st「フィロソフィー・オブ・ザ・ワールド」でした。しかし「世界原理」とはいうもいったり。父親の思惑はどうあれ、ただ無邪気に楽器をかき鳴らし、歌う彼女達の音楽は正にイノセントな「天然の美」。アマチュアリズムがロックの本質のひとつであるならば、これ以上に「ロック」なアルバムもそうはありません。冒頭に引用したザッパの発言はそこのところを言っているのだと私には思えます。この1stに比べると6年後に発表された2nd(これも出たこと自体が奇跡だと思います)は、多少まともになっています。とりあえずドラムがビートを刻もうとしているので、ややバンド・サウンドっぽくなっているのです。とはいえやはりその独自性にゆるぎなし。カーペンターズの「イエスタディ・ワンス・モア」をカヴァーしているのですが、その脱力ぶりといったら・・・。原曲がサウンドもヴォーカルも完璧に仕上げられたプロダクションなので、よけいにその落差が際立ちます。これがわざとやっているようには聴こえないというのがシャッグスのすごいところなのです。
正直毎日聴きたい音楽ではありません。年に2、3回聴くぐらいです。しかし聴くたびに、なんだか晴れ晴れしい気分にさせてくれる音楽です。これからも私のささやかなコレクションの中で特別な位置を占め続けていることでしょう。ちなみにジャケットに描かれている謎の生物は猫だとか。やはりシャッグス、おそるべし。


"The best worst rock album ever made." The New York Times

*1:ザッパは誉めてるけど、後の2人は微妙ですね、よく読むと